展示会を技術交流と連携の場に
全国トップクラスのロボット集積アピール
ロボット産業の育成を成長戦略に掲げる自治体が多い中で、神奈川県は全国トップクラスのロボット関連企業の集積だけでなく、自治体関係者によるきめ細かな技術交流支援などを手がけてきたことが特徴的。「2015国際ロボット展」では、サービスロボット(SR)ゾーンで県内の50社が出展。特に展示会を単に製品や技術の披露の場とするだけでなく、技術交流とその後の連携や新たなビジネス機会につなげようとする意欲的な取り組みが注目される。
ロボットが溶け込む近未来の生活空間
神奈川県とロボット産業との関わりは2008年に生活支援ロボット技術交流事業などを始めたことなどから連なって、徐々に裾野を広げている。2013年にはさがみ縦貫道路沿線地域等が「さがみロボット産業特区」に指定され、ロボットの実証試験の支援などが行われている。政府が今年「ロボット新政略」を策定するなどロボット分野がいよいよ国レベルで注力される中、高齢化社会に向けた介護負担の軽減、災害現場での活躍などをテーマに開発された生活支援ロボットやその関連技術を国際ロボット展で披露する。
今回の見どころは大きくわけて二つになる。一つは前述のさがみロボット産業特区で取り組む内容のアピール。ここでは「人とロボットの共生する社会」を目指し、ブースにリビング、寝室、浴室など近未来の生活空間を再現し、そこに溶け込むロボット技術を見せる。例えば浴槽での立ち座りや出入りをサポートする「バスリフト」(TOTO)、天井の照明器具にレーダーを搭載した見守りシステム「レーダーライト」(CQ−Sネット)などが展示される。
約30社のプレゼンを実施
もう一つがロボット関連企業による「かながわロボットイノベーション2015」とロボット以外にも優れたモノづくり技術を持つ企業を紹介する「モノづくりパビリオンwith かながわ2015」。特設ステージも設けられ、約30社がプレゼンを行う。
ここに出てくる企業は高い技術力を武器にするものの、全国規模の展示会でのアピールには慣れていない中小企業も多い。このため神奈川県産業技術センターでは開幕2週間前に出展者を集めた「技術交流会」を実施。各社にリハーサル発表をしてもらい、お互いに良かった点、改善した方が良い点などコメントシートを寄せてもらい交流するなど準備も進めてきた。この取り組みを主導する伊東圭昌神奈川県産業技術センター主任研究員は「本番で緊張しないよう準備をするとともに、お互いのことを知ってから展示会に臨めば連携効果は高まる」とその狙いを語る。こうした自治体関係者のコーディネートや展示会にかかるサポートを続ける中で生まれてきた、新たな連携体の技術も披露される。
連携から生まれた新ロボットなど披露
モーターをコントロールするモーターアンプを開発するコロンバス精機(相模原市緑区)とセキュリティー機器やラジコンカー製造などを手がける三矢研究所(川崎市麻生区)などが共同で開発したロボット台車を披露する。位置補正用のアルミテープを貼るだけで、ロボット内のセンサーが検知して位置を補正しながら目的地に進む。磁気テープやGPSなど面倒なテープ、センサー類が不要で、ブラシレスモーター駆動によるスマートな制御が可能だ。両社は隣同士のブースでありながら壁を取り払い、その間を新開発のロボットが動く姿が見られる。ACモーター、DCモーター、サーボモーターなどどんなモーターでも自由に扱えるアンプを開発した本宮輝明コロンバス精機社長は「アンプだけでは展示会で見せるのが難しかったが、実機に搭載されたものを見せ、特徴をうまく紹介したい」と力が入る。田中万隆三矢研究所総務部課長も「バックに自治体がついてくれることで連携体として見せることができる。新たなビジネスの機会にもなるかもしれない」と期待を寄せている。
特別インタビュー
神奈川県産業労働局 産業部 産業振興課 技術開発推進グループ 天野亜寅氏
―県内の50社が出展するとは大規模なスケールですね。
神奈川県の優れた技術を持つ企業が集まっています。さがみロボット産業特区の重点プロジェクトに参加している企業もあるし、そういったロボットメーカーを支えるモノづくり企業などもあります。
―交流促進に積極的です。
神奈川の技術力を広く見てもらいたいのはもちろんですが、展示会を企業交流事業としても考えています。ロボット関連はすそ野が広く、部品やデバイスを供給する企業、モノづくり企業が交流することでこそ新たなロボット開発が進むのではないかと思います。このため個別企業の展示だけでなく、いかに連携を生むかを考えています。
―リハーサルの交流会実施もユニークですね。
国際ロボット展は大きな展示会で世界的に有名な企業が集まっているのが魅力ですが、神奈川県としては中小企業にもぜひ光を当てていきたいです。そのためにどういう形で見せるべきか、中小企業の連携を見せていくというのはその一つのやり方ではないかと。私たち行政や支援機関はこうした交流会などを通じ新たな連携を生み出すサポートをしていきます。
【自治体データ】
日刊工業新聞社 企画部
(オンライン編集チーム)