[ オピニオン ]
(2016/9/6 05:00)
中小企業の人材採用難が深刻化している。設計開発や生産、品質管理といった現場人材の不足感はとりわけ強い。政府や自治体は、従来の方法にとらわれない多面的な支援策を講じてもらいたい。
日本商工会議所が今春、中小・地場の約4000社に実施した調査では56%が人手不足を訴えた。信州大学の高橋伸一郎特任教授が独自技術で知られる関東・甲信越の中堅・中小製造業30社に実施した調査でも、57%が技術人材の不足を指摘。自動車や航空機、医療分野で異彩を放つグローバル・ニッチ・トップ企業でさえ、人材難に直面する現実が浮き彫りになった。
昨年と今年、中小企業の採用は大手の選考日程変更のあおりを受けてきた。2015年は経団連が就職協定の採用面接解禁を4月から8月に繰り下げた結果、就職活動が長期化。中小企業は内定学生の引き留めに苦心した。逆に面接解禁を8月から6月へ前倒しした16年は学生に短期決戦の意識が高まり、大企業志向に拍車がかかった。
経団連は今年の採用日程を17年も継続するもよう。中小企業の立場から活動の長期化を問題視してきた日商の三村明夫会頭は、16年については「大きな混乱はなかった」と評価した上で、9月中旬にも「日商としての(新ルールに対する)態度を決定する」意向だ。
ただ中小の人材難の本質的な問題は採用日程ではない。企業はグローバル化の進展に対しては、競争力を磨くことで克服の道を見いだせる。しかし国内の構造的な問題である労働人口の減少は、企業努力で対処するにも限界がある。
すでに多くの先進的な中小企業が、賃金を含めた処遇改善や若手にやりがいある仕事を任せる風土改革など、自社の魅力向上に努めている。政府や自治体には、会社説明会の開催など従来の支援策だけでなく、個々の中小企業の魅力を発信する多面的な支援強化を求めたい。例えば中小に入社した技術者を対象に、海外の展示会や学会への出張費を補助するような施策も検討すべきだ。
(2016/9/6 05:00)