[ その他 ]
(2017/1/31 05:00)
ニューヨーク発
2017年01月30日
シュークリーム専門店「ビアードパパ」を中心に菓子店や外食店チェーンのフランチャイズ(FC)展開を行う「麦の穂」(本社:大阪市)は、2004年3月にニューヨークに米国1号店を設立、2013年から人員を刷新し、米国での「ビアードパパ」ブランドのリブランディング(ブランド再構築)や、FC契約形態の見直しなどをしながら、新たなFC事業を展開している。米国法人最高財務責任者(CFO)の中村和宏氏に聞いた(2016年12月7日)。
<しっかりとしたフランチャイジー支援体制が重要>
問:米国進出の背景・経緯は。
答:「ビアードパパ」は1999年に福岡で1号店をオープンした。その後、2000年に愛知県でのFC1号店のオープンを皮切りに、2002年2月には200まで店舗数を拡大し、FC形態での出店を加速していった。この勢いで、2004年3月には米国1号店となる直営店をニューヨーク市マンハッタンのアッパーウエストサイドにオープンし、その後はロサンゼルスの直営2号店を除き全てFCとして店舗を拡大していった。
しかし、米国法人発足当初はFC加盟店舗数の拡大に主眼を置いていたため、フランチャイジー(加盟店)に対する支援体制の構築などが追い付かず、フランチャイジーの管理、サービス、品質の維持などさまざまな面で問題が顕在化し、ブランドが傷んでしまった。そうした中、私が2013年に「麦の穂」に入社し、米国に赴任した際の主なミッションは米国事業の立て直しだった。
問:どのように立て直しを図ったのか。
答:本来、フランチャイザー(本部)の役割は、新商品の投入や従業員のトレーニングなどを通じて、店舗運営のノウハウなどをフランチャイジーに提供し、フランチャイジーがきちんと利益を出せるように支援することだが、当時はそのような体制が整っておらず、フランチャイザーとフランチャイジーの間に溝ができていた。
米国事業の立て直しに当たって、まずは他店舗の見本となる直営店の刷新を進め、リブランディングを図ることで、直営店を軸としたフランチャイジーの支援体制の再構築を進めている。直営店の接客、サービス、商品の品質などをしっかりと保つことで他の店舗にそれを波及させることができるからだ。
また、やみくもに店舗数を拡大する中で、店舗ごとに個人事業主と契約するユニットFCの店舗数が多くなってしまっていたことから、これを見直した。ニューヨークで開催される「インターナショナル・フランチャイズ・エキスポ」で、ジェトロが主催するジャパンパビリオンに2014年から2年連続で出展し、マサチューセッツ州およびバージニア州のコーポレートパートナーを開拓した。今後それぞれの州で随時店舗数を拡大していく方向だ。複数のユニットフランチャイジーを管理するよりも、複数店舗の開拓を任せられるコーポレートパートナーとFC契約することで、人繰りや輸送効率などの面で利点がある。
ブランディングについては、店舗の内装を黄色と青のコーポレートカラーに統一、マスコットキャラクターの表示も大きくし、店舗の中心に置いた。商品構成については、シュークリームがメインではあるが、米国では単一商品の専門店がはやりにくいということもあり、オリジナルのシュークリームに加え、チョコがけなどで甘さを強調した商品や、食べやすさを追求したスティックタイプの商品を投入した。米国の傾向として写真映えのする商品が受けるということもあるので、品質や味だけでなく、商品の見た目やパッケージなどのプレゼンテーションの改善にも取り組んでいる。
<直営店のサービスや商品品質を他店舗に>
問:米国でFC展開する際にはどのような準備が必要か。
答:まずはあるエリアで直営店を1~2店出店し、その後全米展開を検討している場合は西部、東部および南部など、地域ドミナントを狙うエリアでそれぞれ直営店を構えるのがよいだろう。直営店は、収益を出すだけではなく、トレーニングセンターとしての役割や新商品の投入に向けたトライアル販売による商品展開の検証機能などさまざまな役割を担う。直営店はブランドの水準を体現する店舗であり、前述のとおり、直営店での接客、サービスおよび商品の品質などをしっかり保つことで、他店舗にその品質を波及させることができる。
直営店である程度成果を出してからFC展開することで、フランチャイジーを選べるというメリットもある。実績のないうちからFCの開拓に集中しようとすると、買い手市場になり、悪質なフランチャイジーと提携してしまうリスクもあるが、直営店で成果を出していればフランチャイジー側から手を挙げてくるため売り手市場となり、優位な立場でパートナーを探すことができる。
また、米国はFCに関する規制も厳しい。フランチャイザーはフランチャイジー候補に対してビジネス内容などを網羅した「フランチャイズ・ディスクロージャー・ドキュメント(FDD)」の開示が義務付けられている。また、州ごとにFCの法律が異なり、FCの登録を義務付けている州もある。訴訟社会でもあるので、フランチャイジーへの支援体制をしっかりと構築し、フランチャイザーの責任をきちんと果たさなければ訴えられるリスクも抱える。
さらに、フランチャイジーへの支援体制を構築する上で、人材育成は非常に重要なポイントだ。商品やサービスの質が落ちないように、また質を上げるように指導し、店舗の地域特性や顧客データを分析し、商品構成や人件費、従業員のシフトなどの店舗運営を管理・指導できる人材を育てていくことが必要だ。最初は日本人駐在員を派遣してこれらの役割を担いつつも、いずれは米国で人材を育て現地化していく必要があるだろう。
<コーポレートパートナーとの提携で効率的にFC展開>
問:FC店舗の開拓はどのように進めたらよいか。
答:ブランドがはやっていれば、自然とフランチャイジー側から接触してくるものだ。前述のニューヨークで開催された「インターナショナル・フランチャイズ・エキスポ」では、運良くパートナーを開拓することができた。ただ、実際の来場者はユニットフランチャイジーとなる個人事業主やコンサルタントが多い印象があり、初めての米国展開に向けて市場の反応を探るという意味では効果的だと思うが、コーポレートパートナーを探すには必ずしも効率的とはいえない。
フランチャイズパートナーとしては、個人事業者よりも、複数店舗展開が可能で経営力や経験のあるコーポレートパートナーと組むのがよいだろう。ユニットフランチャイジーはコントロールが難しく、管理コストもかかるため、コーポレートパートナーと組むことで効率的にFC展開を進めることができる。ただし、このようなコーポレートは組織もしっかりしているため、契約後にこちらの対応を誤れば、大きな訴訟に発展するリスクもある。いずれにせよ、フランチャイザーとしての責任をきちんと果たし、フランチャイジーと良好な関係を築くことが重要だ。
<大都市を中心に全米100店舗を目指す>
問:米国展開の意義をどのように考えているか。また今後の展開や目標は。
答:米国はFCの本場であり、米国のスタンダードは多くの国で受け入れられる。米国での経験やノウハウは、米国およびカナダに限らず世界に通用すると捉えている。3億人超の人口を抱える米国市場はそれ自体が魅力的な市場でもある。今後は大都市を中心にまずは全米で100店舗を目指していきたい。また、米国側のパートナーはシュークリームに限らず、日本の品質管理、味、安全性に関心を持っているので、「ビアードパパ」以外のブランドの売り込みも積極的に行っていきたい。特に麦の穂ホールディングスは2013年の買収により永谷園ホールディングスの傘下となっており、麦の穂ホールディングスの海外でのFC展開のノウハウと永谷園の商品構成とのコラボレーションを通じてシナジー効果も出していけると考えている。
(福冨知亜紀)
(米国)
(2017/1/31 05:00)