[ オピニオン ]

【電子版】論説室から/国立大ならではの“地域から全国へ”の取り組みに期待

(2017/2/2 05:00)

地元と連携した大学の地域貢献活動が進んでいるが、大学関係者の間には「全国的に注目を集める研究や教育の活動をしたい」という理想も、依然として根強く残っている。これらの両立はどのような形なら可能なのか。成功事例から大学の“オンリーワン”を考えたい。

科学技術を核に社会を変えることを正面から掲げる文部科学省の大型事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」。2016年の中間評価が好成績で注目されるのが弘前大学だ。短寿命県の悪評を返上すべく、同大は青森県、弘前市などと同市内の住民の生活習慣や600項目の血液生化学データを集める健康診断を十数年間、続けてきた。大病院における患者データと違い、健康人延べ2万人のビッグデータと言える。これを自社の健康ビジネスに活用したい企業など50機関ほどが、弘前大のCOIに参加している。

企業の独自データをCOIのビッグデータと組み合わせることで、「認知症と握力に相関がある」など予想外のかかわりが見つかっている。また、COIの場を利用して開発製品の大規模実証試験ができるのも魅力だ。ベルト型内臓脂肪計を開発した花王、唾液検査による歯周病把握に取り組むライオンなどが代表例。さらにショッピングセンターでのウォーキングイベントと関連づけるイオンや、健康料理レシピのコンテストを手がける楽天など、業種の幅は広い。

この健診データベースについて、同大では医学部を中心に総力を挙げて取り組んできた。住民100人に対し、教授や研究者、事務職員、医学生などスタッフ300人が対応。高齢者対応で早朝6時にスタートし、15時までの検査が連日続くという。これを自治体とともに継続できる結束力が、地方大学の強みでもある。世界最先端の研究発表を重視する旧帝大など研究型大学とは、別次元の価値を地域社会に示している。

もう一つ、地域の産学連携の実績を土台に、知的財産(知財)の活動を“知財教育”に発展させた山口大学の事例を紹介したい。同大は当初、学内向けの特許情報検索のスキル研修や、発明の証拠を確保するための研究・実験ノートの開発に取り組んだ。その後、研究ノートや知財教育テキストは、他大学でも広く購入されるようになった。同大は文芸や音楽の制作で発生する著作権、デザインの意匠権やブランド名の商標権などについても、地域企業の啓もうに力を入れている。これも「知財といえば、理工系の特許」となりがちな他の大学と違う点だ。こうした実績により、知財教育のノウハウを全国の大学に伝える共同拠点として国の認定を受け、最近では中学・高校の生徒に知財教育ができる教員養成の研修も始めている。

国立大学86校は15年に、それぞれ目指すべき方向として「世界」「特色」などの枠組みを選択し、このうちほぼ半分が「地域貢献」をミッションに選んだ。その結果、既存の公立大や私立大と競合するケースも出てきている。それよりもむしろ、国立大ならではの「地域から全国、そして世界へ」という方向性を前面に打ち出してみてはどうか。より存在感を発揮する大学の取り組みに期待したい。

(論説委員・山本佳世子)

(2017/2/2 05:00)

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