[ その他 ]
(2017/3/9 05:00)
日本発明振興協会(東京都渋谷区、原昭邦会長、03・3464・6991)と日刊工業新聞社共催の「第42回(2016年度)発明大賞」に24件の発明が選ばれた。発明大賞は発明考案を通して産業の発展や国民生活の向上に寄与した資本金10億円以下の中堅・中小企業や個人、グループに贈られる。表彰式は13日に東京都港区の明治記念館で行う。
【発明大賞 本賞】
■らせん状回転流を利用した揮発性物質の濃縮装置=バイオクロマト(代表取締役・木下一真氏ほか1人)
液体を効率的に濃縮できる濃縮装置(エバポレーター)。容器内が高真空状態にならないよう、容器と栓にらせん状の溝を付けた。溝から流入するガスでらせん気流が発生。気流で試料全体を撹拌し、高真空状態にならないため突沸も抑える。従来は突沸しないよう、装置の前で常に濃縮の様子を監視する必要があった。
水や高沸点溶媒(DMSO、DMF)など、遠心濃縮機や吹付濃縮では濃縮に時間がかかる試料や、粘性が高い試料にも使用できる。
(バイオクロマト=神奈川県藤沢市、0466・23・8382)
【発明大賞 東京都知事賞】
■果実表面と接触しない果物個別包装容器=アイ・イート(取締役技術開発担当・柏嵜勝氏ほか2人)
イチゴの果柄を容器に固定し、流通過程でダメージを受けやすい部分を保護する容器。イチゴの柔らかい部分は容器に接触しないため、輸送時の損傷を防げる。宇都宮大学と共同開発した。一般的に収穫やパック詰めは人の手で行うが、イチゴを傷める可能性があった。しかし、発明した容器はイチゴの果柄部分を持って充填することにより、そういった恐れも回避できる。
(アイ・イート=宇都宮市、028・689・6328)
【発明大賞 日本発明振興協会会長賞】
■胴部材の芯材と軸材を摩擦接合した圧延ロール製造方法=フジコー(常務取締役技術開発センター長・永吉英昭氏ほか3人)
鉄筋等の製造で使う軸状の「圧延ロール」を、効率的に接合できる装置。接合する部材を高速で擦り合わせた時に発生する熱で溶融させ、同時に圧力を加えて接合する技術「摩擦圧接法」を導入した。従来は削り出しや溶接で製造した。
接合端面に加える熱量の分布と加える圧力のタイミングを制御することで万遍なく面接合させ、そのため強固な接合を実現している。
(フジコー=北九州市、093・871・3724)
【発明大賞 日刊工業新聞社賞】
■断面形状が波形の集水管=藤進(代表取締役・工藤道男氏)
従来品に比べ、耐腐食性と強度、集水効率を向上した集水管。発明した製品は、金属線を埋め込んで補強したポリ塩化ビニル(PVC)系の「特殊グラフト樹脂」を採用した。従来は鋼やPVC製の材料が使われていた。
さらに従来の円筒形から、断面の形状が波形の構造へ変更。外側の凹部に集水孔を設け、水を集めやすく、あふれにくい構造にした。
(藤進=秋田市新屋鳥木町、018・828・1211)
【発明功労賞(50音順)】
■剥離状態にある石板と躯体を樹脂柱で一体化する工法=FSテクニカル(代表取締役・藤田正吾氏)
ビルなどの外壁のパネルの剥離や、浮きを直す技術。外壁と、壁の構造を支える骨組みに穴を開け、その穴に樹脂を注入する。パネルを張り替えずに補強可能。50ミリメートル程度の隙間でも、壁から垂直に柱を形成できる。一般的な工法はパネルなどを一度取り外し、金具や接着剤で補強する。時間や工期が短縮でき、施行価格を従来の3分の1程度の3万―4万円に抑えられる。
(FSテクニカル=東京都葛飾区、03・5671・3134)
■乳化・破砕用のカッターを搭載した加熱冷却撹拌機=カジワラ(代表取締役社長・梶原秀浩氏ほか4人)
ドレッシングやマヨネーズなどの加工食品を製造する装置。撹拌と乳化を同時に行い、食品の質量をリアルタイムで計測できる。工程の自動化や再現性の高い生産が可能。
撹拌容器と回転作用部のモーターユニットを強度部材として使い、補強構造を削減。重量の増加を抑えた。従来品は釜の中の重量をリアルタイムで計測するために強固なフレームが使われており、高重量だった。
(カジワラ=東京都台東区、03・3842・6611)
■大面積中実水幕を遠距離放水できる消火ノズル=ケーエスケー(専務取締役・楠伸治氏ほか1人)
外筒を回すことで、強力な放水力を実現した複数の放水口の向きが連動して変化する装置。水の射出方向には複数のノズルチップを円周状に配置。回転させれば、水の角度や距離などを調節することができる。従来品では約180秒かかっていた5メートルの円の灯油火災を、25秒程度で消火可能。防災や消防をはじめ、航空機など大型機械の洗浄、融雪などに利用できる。
(ケーエスケー=愛知県安城市、0566・92・4383)
■可搬形接地電極=昭電(技術開発部部長・柳川俊一氏ほか3人)
高所作業車の作業時、作業員等の安全性を確保するための導体「接地極」を容易にとる方法を発明した。
十分に給水させた吸水性ポリマーと銅線とを組み合わせた接地面を路面に設置する。従来、接地極の設置には土が必要であったが、吸水性ポリマーから水が染み出すことで、土のないコンクリート上でも接地極を仮設できるようになった。仮設設備の接地極や測定用補助電極としても使用できる。
(昭電=東京都墨田区、03・5819・8811)
■酸素を含まない窒素置換雪で包み込む生鮮品冷蔵システム=昭和冷凍プラント(代表取締役・若山敏次氏)
氷の内部にある酸素が窒素に置換された「窒素氷」の粒を、まんべんなく生鮮食品に付着させることにより、食品の劣化を防ぐことができる冷蔵庫。従来品に比べて食品の鮮度を長く保持できるため、食品の廃棄削減にもつなげられる。食品が冷蔵庫内の酸素に触れないよう、窒素氷で食品を包む設計にした。生産者や食品加工メーカーからの需要を見込む。
(昭和冷凍プラント=北海道釧路市、0154・25・1846)
■歯車用研磨体=ニートレックス(特機事業部理事・塗矢隆彦氏ほか1人)
曲げられるシートを重ね合わせてネジの形状にした、歯車を研磨する回転体。シートが歯にぴったりと接触するため、簡単に研磨できる。さらに、研磨前のツルーイング(形直し)やドレッシング(目直し)といった手入れが不要だ。
歯車の研磨には一般的に砥石(といし)が使われていたが、ナノメートル(ナノは10億分の1)単位の高度な加工技術が必要だった。
(ニートレックス=愛知県名古屋市、052・872・0551)
■空調機のドレンを真空で吸引する装置=ユーキャン(代表取締役・安藤磐氏)
空調機などが排出する、空気が熱を失い凝縮した水「ドレン水」を、気圧差を使い強制的に排水する装置。ドレン水の受水槽と、真空ポンプで減圧したタンクを接続するため、天井内の配水管の下り勾配が不要になる。
曲げられるチューブを使うことで配管を容易にした。さらにチューブの中に汚れが付着しにくい。従来は配水管に下り勾配を付け、重力で排水していた。
(ユーキャン=東京都八王子市、042・665・8846)
【発明奨励賞】
■マイクロ波を使った多孔質コンクリート成型品=日本環境開発(代表取締役・高橋茂行氏)
湿度の調節や断熱、吸水性能を持つ建築資材。一般的なコンクリートの原料であるセメントと砂、水に粒状の樹脂を混ぜて成型する。硬化した後にマイクロ波を照射し、加熱すると材料の樹脂が溶け、水や熱の通り道になる小さな隙間ができる。
樹脂は廃棄物として処理されている端材を使う。小さいサイズや少量も製作可能。プランターなどの園芸商品に活用できる。(日本環境開発〈日栄興産内〉=埼玉県新座市、048・481・0300)
■絵柄を使った乱数表=バンクガード(代表取締役・藤井治彦氏)
絵柄を使った乱数表。キーボードでは絵文字を直接入力できないため、従来の乱数表のように、偽造画面に全ての乱数を入力させ盗まれるなどの恐れがない。また中間者攻撃など最新のサイバー攻撃も防御できる。
同乱数表は、全国の信金のシステムを運営する「しんきん情報システムセンター」が採用している。(バンクガード=東京都新宿区、050・5532・3771)
■レーザー光による透明ガラスの欠陥検査装置=列真(代表取締役・張東勝氏)
厚みのあるガラス基板の欠陥を、一度の検査で調べられる装置。ガラス基板の表と裏に検出器を配置し、表側からレーザー光を照射。非検査物の表面と内部、裏面を一回の検査で調べられる。従来は厚みのあるガラス基板の内部や裏面を一度の照射では検査できず、非検査物を裏返して検査する必要があった。同装置を使えば検査の時間や手間を大きく減らすことができる。(列真=東京都足立区、03・5284・6477)
【考案功労賞(50音順)】
■ペンタイプ粉末容器=浅原克好氏(個人)
お茶や紅茶、唐辛子といった、飲み物や香辛料などを入れて持ち運べるペン型の容器。ペン先はポリエチレン製で、食品が詰まっても指でもめば取り除ける。さらに残量が確認できるよう、ペン先は透明にした。
容器の外側はさまざまなプリントが可能なため、ノベルティーや土産品などに使用できる。粉末をこぼさずにペンに充填する、ろうとも開発した。(浅原克好氏〈浅原工業〉=静岡県島田市、0547・38・2902)
■緊急情報ネットワーク表示システム=イー・ダブリュ・エス(代表取締役社長・中村里美氏ほか1人)
緊急地震速報などを検知した際、パソコンやデジタルサイネージ(電子看板)に画像やアナウンスで情報を伝えるシステム。あらかじめ用意した画像や音声に対応した番号だけを送るため、情報量を削減。リアルタイム性を確保した。
自動ドアや通報システムとも連動可能。不審者の発見や建造物の監視といった、セキュリティーシステムとしても活用できる。(イー・ダブリュ・エス=津市、059・236・5811)
■額縁レス表示装置=NKKスイッチズ(R&D部開発3課・浦広樹氏)
複数のボタンで構成された有機ELディスプレーに映像を表示する装置。ボタンを押すと映像の切り替えなどが可能。ディスプレーのふちを従来品の5分の1となる約0.9ミリメートルに抑えたほか、表示装置にはレンズ機構を採用。レンズの曲面で光が鉛直方向に広がり、映像を見やすくした。カラー有機ELディスプレーは5万時間と長寿命だ。(NKKスイッチズ=川崎市高津区、044・813・8001)
■変形サイクロイド曲線を用いたサイクロイド歯車=サイベックコーポレーション(バリューテクノロジー研究所チーフ・白鳥達也氏ほか1人)
摩擦によるロスが少ない歯車。楕円にて形成される変形サイクロイド曲線を歯形に用いることで、歯車機構の設計自由度を向上させた。電動アクチュエータの減速機に導入することで、高効率化・小型軽量化できる。
従来品は、適用できる歯車機構に制約があり設計自由度が低かった。(サイベックコーポレーション=長野県塩尻市、0263・51・1800)
■Au―Sn合金めっき液=ナウケミカル(代表取締役・金城純一氏)
2価と4価のスズを使い、長寿命化した金―スズ合金のメッキ液。1―100マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の広範囲で均一な組成の合金メッキを行える。約300度Cと高融点の「ハンダメッキ」の量産にも対応可能。一般的にスズは2価と4価のどちらかが使われていた。開発したメッキ液は1年以上安定する上、繰り返し使う際の再現性も高い。(ナウケミカル=東京都葛飾区、03・5698・1370)
■ニッケル系高硬度合金の拡散接合塗工ダイ=平井工業(営業部営業部長・平井昌夫氏)
先端エッジに高耐食ニッケル合金を使い、硬さを従来比約2倍となる60HRC以上にした塗工ダイ。数百―2000度Cの高温と数十―200メガパスカル(メガは100万)の圧力を加える「熱間等方圧加圧法」(HIP)で、母材のステンレスに粉末合金を拡散接合した。従来品は先端エッジに傷や摩耗が発生し、塗工機材にスジやムラができていた。(平井工業=兵庫県尼崎市、06・6488・4351)
■野菜皮むき器=松本英夫氏(個人)
ショウガやサトイモ、ジャガイモなど、表面に凹凸がある野菜の皮むきを自動で行う小型の機械。水槽に野菜と水を入れ、スイッチを押すと水槽内のスクリューが高速で回転する。その回転で水を循環させ、固定された刃物に野菜をぶつけて皮をむく仕組み。合計2キログラムの野菜であれば4―5分程度で作業できる。食品工場やスーパーマーケットなどの需要を見込む。(松本英夫氏〈千客万来〉=さいたま市南区、048・755・9620)
■永久磁石を用いたアルミ溶湯撹拌装置=宮本工業所(工業炉常務執行役員技術部長・宮本千佳司氏)
アルミニウム合金の切削くずを溶解する炉。比重が軽く酸化しやすい材料を溶解する際、速やかに溶液へひたせる。同製品は永久磁石の回転で磁界を発生させる。その磁界で溶液に誘導電流が生まれ、金属が溶けた液体(溶湯)の流れを作る。シンプルな構造のため清掃しやすく、部品交換も簡単に行える。冷却水が不要で、消費電力も低減した。(宮本工業所=富山市、076・441・2203)
■摩擦や張力の負荷をかけない曲げ試験機=ユアサシステム機器(取締役執行役員・岡崎恭久氏ほか2人)
スマートフォンなどに使う、丸めたり曲げたりできるディスプレー「フレキシブルディスプレー」の曲げ耐久試験装置。一般的に素材を曲げるために使われる心金「マンドレル」を使わないため、素材が破損しない。マンドレルに接触すると素材に摩擦や張力の負荷がかかって破損し、正確に試験できないのが従来機の課題だった。(ユアサシステム機器=岡山市北区、086・287・9030)
■カッターミル方式で樹脂片を微粉砕、分級する装置=吉工(代表取締役・宇都宮哲氏)
樹脂ペレット等を鋭利な刃物で粉砕しこれを風で巻き上げ、風速で粒子の大きさを選別するもので、フィルターは必要としない。粒子の排出口の風速を調整すると、決められた粒子の大きさに満たない粉末は装置内に落下し、再度粉砕される仕組み。
従来機はフィルターの目の細かさで粒子の大きさを調節していたため、目詰まりが起こりやすかった。(吉工=神奈川県小田原市、0465・38・2020)
(2017/3/9 05:00)