[ トピックス ]
(2017/4/26 05:00)
デジタルネットワーク分野の技術革新が進む。変革の時代にありながら、日本の知的財産の活用は今ひとつ。日本弁理士会の渡邉敬介会長は「これからの時代を乗り切るためには、知的創造サイクルを活性化させることが必要」と説き、近年悪化している弁理士の業務環境改善に主眼を置く。中小企業に知財の有用性を広める「知財広め隊」の創設など新たな施策を打ち出し、知財創造サイクルの好循環を生み出す。
中小企業向けの支援推進
日本弁理士会の2017年度重点政策は「知的創造サイクルの活性化と、弁理士の業務環境の改善」「会員のための施策の充実」「中小企業への知財支援と知財普及活動の強化」「施策の実施に適した日本弁理士会の組織の改革」の4点。
とりわけ中小企業の潜在的能力を引き出せれば、弁理士のコア業務の量的拡大を大きく前進させる可能性があるとみる。
そこで「知財広め隊」を創設する。全国100カ所程度でセミナーを予定しており、知財の実践的活用方法や失敗事例を紹介するほか、知財金融や補助金制度の利用方法などすぐに使える内容を含める方針だ。
「中小企業支援セミナーワーキンググループ」を中心に関係省庁、各種団体などと連携を取りつつ実施する。「知財広め隊」を足がかりに新規クライアントを発掘。訪問型コンサル件数を増やす。同時に弁理士知財キャラバンとのコラボレーションにより、コア業務の拡大につなげる。
弁理士の周辺業務拡大策の一つとして、タイムスタンプを利用した技術情報の秘匿化業務ならびに標準化を含めた「オープン・クローズ戦略」などについての相談業務などを対外的に広めるとともに、会員に対しても啓発していく。
一方、会員に有益な施策を充実させるために、業務に即した研修を拡充する。ある程度実務経験を積んだ弁理士を対象とした育成塾や演習型の実務研修などを想定。周辺業務を含めた実務能力の向上を図る。
他方、知財の普及活動の強化、弁理士の知名度向上にも注力する。広報のプロを招聘し、広報活動の目的、ターゲットなどを検証。教育機関などに対する知財リテラシーの普及啓発を推進するため、学習指導要領の充実を通した知財教育の普及啓発を文部科学省に働きかける。
日本弁理士会の組織改革も継続して行っていく。今年度からは知的財産評価推進センター、知的財産経営コンサルティング委員会、知的財産活用推進委員会、キャラバン統合ワーキンググループを統合した「知的財産経営センター」が始動。
さらに複数年にわたり継続検討するべき中長期課題に関する諮問の管理とその結果の活用を図る組織の設置に向けてワーキンググループを立ち上げる。第四次産業革命に伴う知財政策変化などの課題に関し、有益な情報を発信する。
また、20年の東京五輪・パラリンピックを見据え、日本弁理士会が貢献できることを検討する。広報・教育活動への協力や競技種目・施設に活用される知財の事例を調査分析して、知財とオリ・パラの関係を周知していく考えだ。19年には弁理士制度120周年が控える。記念事業を行う準備組織も発足する方針だ。
【日本弁理士会会長 渡邉敬介氏に聞く】
―会長就任に当たっての抱負を教えてください
「第四次産業革命により社会や市場の在り方が大きく変化しそうだ。一方で特許出願件数はリーマン・ショック以降、漸減傾向が続いており回復が見通せない。新技術を作り出す想像力が少し停滞しているのかもしれない。この状況下で急激な変革が起きると、知財が置き去りにされる恐れがある。知財の世界に元気を取り戻し、変化に機敏に対応していきたい」
―現在、検討している新たな施策は
「地域セミナーだ。企業のみならず弁理士の興味も満たす題材を選び、セミナー後には情報交換の時間を設ける。知財活用の成功事例を取り上る予定だ。地方自治体や日本弁理士会、特許庁などの助成事業も紹介し、利用を促す。中小企業が元気にならないと経済の底上げは図れない」
―15、16年度は弁理士知財キャラバンに力を入れてきました
「継続する。16年度は100件を上回る申請があり、300件超のコンサルティングを行った。出願業務だけでなくコンサル業務にも精通した弁理士を育成していることを周知したい。経営戦略まで踏み込んで話すことが重要になる。フォローアップも徹底したい」
―テレビやラジオなど広報活動を充実させています
「さまざまな手を打っており、それなりの成果は上がっている。しかし、昔は少数派だった会社勤務の弁理士が足元では全体の2割超を占めるなど、弁理士の資格に対する考え方が変化している。アンケートなどでニーズを吸い上げ、改めて広報戦略の基本路線を洗い出す」
―2月に外国からの出願促進を図るキャンペーン「ディスカバリーIPジャパンカンファレンス2017」を行いました
「米国シアトルとシリコンバレーの2カ所で開催した。思ったより日本のことを知らなかったようで、来場者からは『良い情報をもらえた』と反響があった。続けていきたい」
―国際的な知財の在り方を議論するプレジデントミーティングも続けますか
「韓国や豪州、アジア、欧州の弁理士会などが参加し、過去2回、日本で実施してきた。次回は韓国の弁理士会が開催に手を上げた。特許協力条約(PCT)国際出願のオンライン出願や、各庁システムを結び審査経過情報をユーザーが一括参照できるグローバル・ドシエについて、中小企業にも使いやすくするにはどうすれば良いかなど意見交換した」
【業界展望台】知財活用特集は、4/28まで連載中です。(全9回)
(2017/4/26 05:00)