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(2017/4/21 05:00)
経済のグローバル化が進み、大企業のみならず中小企業においても既に海外進出を果たしている企業が数多く存在する。統計データによれば、日本企業の海外売上高比率、海外生産比率、海外収益比率は堅調な増加傾向にあり、今後しばらくはこの傾向は変わらないものと考えられる(図1)。このような背景の中で、日本企業の国際競争力向上のため、主に特許を念頭に、グローバル知財戦略と知財マネジメントについて考察する。
グローバル市場における事業環境はますます厳しくなってきており、国際的な競争優位性を確保するために知財をどのように出願、管理、活用するかは多くの企業にとって喫緊の課題となっている。日本特許庁における、特許出願全体は漸減傾向にあるが、一方で国際特許出願件数は漸増傾向にある。日本企業におけるグローバル出願率も増加傾向にあるが、欧米企業と比較した場合、必ずしも十分とは言い難い(図2)。特許は単純な数の議論だけではないものの、同じ国際競争の土俵に立った場合にどちらが有利かは明らかだろう。
それでは、どこの国でどれぐらい特許出願すればよいのか。大原則として、大手企業でも中小・ベンチャー企業でも、事業展開している国、または今後事業展開する可能性がある国へは特許出願すべきである。
詳細は割愛するが、鮫島正洋弁護士との共著「知財戦略のススメ」(2016年日経BP社)では、海外出願を決める三つのセオリーを提示している。
(1)まずはコンペティターの生産国、次にマーケット国に出願せよ
競合企業の生産体制や商流における自由度を阻害し、自社事業を有利にできる。
(2)転々流通型製品よりも、据え置き型製品の出願国を多くすべし
商流を見極め、電子機器のような転々流通型製品では、少なくとも最終製品の主要市場国で特許を取得すればよいが、工作機械のような据え置き型製品では、個別性が高く市場コントロールが難しいため、結果的に出願国数を増やす必要がある。
(3)現地生産法人の存在国に特許を出願せよ
親会社が現地で特許を取得することで、現地生産子会社にライセンスし、研究開発投資の回収としてロイヤルティーを徴収する仕組みを作る。
世界特許なる制度が設立され、一つの手続きでグローバルで権利取得ができるようになればよいが、そう簡単には実現されない。したがって、企業は市場、競合、技術などの動向を見据えながら、自社の事業戦略とビジネスモデルに基づき、特許出願によるコストとリターンを勘案した上で、グローバル知財戦略を構築し実行していかなければならない。
特許の外部調達も進む
IT技術の革新によって産業構造がこれまでにないスピードで変化してきている。特にIoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)、ビッグデータ、ロボティクスなどが次世代産業として期待される中、従来型のモノづくりのための知財戦略からIoT時代に沿った知財戦略への転換が必要であろう。
このような業界では、特許は必要ないという考えの経営者も存在するが、これは誤りである。実際にグーグルのような企業でも、特許出願は増加傾向にあり、自前での研究開発による特許出願だけでなく、M&A(合併・買収)での特許獲得や、特許購入・ライセンスなどにより、柔軟かつ迅速に外部調達もしている。さらに、営業秘密の観点も踏まえたオープン・クローズ戦略や標準化戦略によって知財を活用しながらプラットフォームやビジネス・エコシステムを構築し、事業の保護と拡大を両立させている。また欧米のベンチャー企業ほど知財に対する意識が高く、早い段階から海外出願をする傾向にある。
国際課税ルール対応も課題
また、移転価格税制も重要な論点である。移転価格とは、簡単に言えば親子会社間での国境をまたいだ取引価格を指し、有形資産や無形資産の取引、役務提供など、さまざまな取引が対象となる。移転価格税制とは、移転価格と独立企業間(第三者取引)価格に乖離(かいり)がある場合、独立企業間価格で取引したとみなして課税する制度である。移転価格は、グループ内の各国の現地法人との利益配分や、実効税率の違いによる純利益に大きな影響を与える。特にライセンスは目に見えない上、個別性が高く実際の価値を評価し難いため、税務当局による指摘や更正を受けることが多く留意が必要である。
さらに移転価格に関して、多国籍企業による国際課税ルールの隙間を狙った租税回避行為の防止を目的とした、OECD(経済協力開発機構)と20カ国・地域首脳会議(G20)による税源浸食と利益移転(BEPS行動計画)にも対応していかなければならない。これは国際課税ルールの共通化のための多国間協定であり、15の行動計画のうち、主要部分は無形資産に焦点が当てられている。
いずれにしても、日本企業の国際競争力向上のためには知財マネジメントが重要であり、検討すべき課題は多い。近年はM&Aによる海外の競合企業やベンチャー企業の買収や、企業再編による分社化などにより、知財がグローバルに散在し、グループ全体として非効率が生じていることが多い。また、製造拠点のみならず、研究開発拠点を海外に設立する企業も増加している。グループ経営におけるグローバル戦略という視点から、知財マネジメントを実行し、全体効率の最適化や、シナジーの最大化を実現することが求められる。
【デロイトトーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 シニアヴァイスプレジデント 小林 誠】
こばやし・まこと 国際特許事務所を経て現職に至り、知的財産が重要となる製造業およびICT(情報通信技術)業界全般のM&Aアドバイザリー業務、および知的財産コンサルティング業務を専門としている。K.I.T.虎ノ門大学院(金沢工業大学大学院)客員教授
【業界展望台】知財活用特集は、4/28まで連載中です。(全9回)
(2017/4/21 05:00)