[ トピックス ]
(2017/4/28 05:00)
知的財産権を適切かつ積極的に活用すれば、大手企業とも対等に渡り合えるし、自分の発明が業績に貢献すれば社内で評価され、相当な額の発明報奨金も夢じゃない。一方で、知財活動も人間の営みのひとつである以上、企業間や社内の人間関係の中で理不尽な制約を受けることもある。そんな制約を乗り越える工夫もまた、ひとつの知財戦略である。知財にまつわる実務で発生しがちな悩みを解決するヒントをお届けする。
知的財産Q&A
相談1
Q
部品を納めた先の大手メーカーから「もし第三者との間に知的財産に関する紛争が生じた場合、一切の責任を負え」との内容の契約書案を後出しで提示されてしまいました。そんな責任は負いたくない。どうやって交渉すればよいでしょうか。
A
実際に権利侵害のクレームが発生したときのシミュレーションを共有する
先行特許調査を行っていても、「100%第三者の権利を侵害することはない」と言い切るのは難しい場合がある。特に部品の場合、元請けが採用した他の部品との組み合わせが他社の特許権に抵触することもあり、その場合、部品メーカーには保証のしようがない。金銭補償をするにも、青天井ではとてもやっていけない。こんな契約条件、飲みたくないのはやまやまだが、取引関係上、下請けの立場ではなかなか異議を唱えにくい。
そんなとき、交渉の糸口として有効なのが、実際に権利侵害のクレームが発生したときのシミュレーションを共有することだ。
(1)元請け会社に警告書が届いたら、侵害可能性の検証は誰がやるのか?
部品が製品の中でどう作用しているのかを検証するには、元請けの協力は必要不可欠だ。
(2)権利者との交渉や戦略策定はどうするのか?
外部の弁護士などの選定も含め、人的リソースや経験が豊富なのは元請けの方ではないか。
(3)和解金や賠償金が発生した場合、現実的に自社が支払える限界はいくらか?
それを超えてしまったときに困るのは元請けではないか。
そう、いざ権利侵害事件が起こったら、部品メーカーと製品メーカーは一蓮托生(いちれんたくしょう)なのである。その現実を元請けに直視させ、恐れさせることだ。「ウチには交渉や訴訟のノウハウもないし、財務体力にも限界がある。率直なところ、貴社に迷惑をかけずに済むとは思えない」と、多少自虐的な演出を加えてもよいから伝えてみよう。そうすれば、元請けも、書面上、一方的に責任を押し付けてもあまり意味がないことに気付くだろう。現実的な責任分担、役割分担の調整はそこから始まる。
特に、契約案の提示より先に売買取引が済んでしまっているなら、破談という選択肢はほぼあり得ない。その場合、力の強い側が理想とする(現実離れした)契約ではなく、現実という制約に縛られた契約内容に帰結する方が自然だ。つまり、現実を直視し、直視させることによって、力の弱い側が交渉の主導権を握ることも可能なのである。
相談2
Q
うちの会社、従業員の誰が行った発明でも、特許出願の際には願書の「発明者」の欄を開発部長の名前にして出願する慣例があるんです。不満に思う従業員も少なくないのですが、誰も指摘できません。どうすれば是正できるでしょうか。
A
言いにくい正論こそ、弁理士などの外部の専門家に言ってもらう
企業による特許出願の多くは職務発明に基づくものだが、その扱いは会社によってさまざまだ。勤務規則によって、特許を受ける権利をあらかじめ使用者である企業に承継ないし帰属させることを定めている会社もあれば、個別の発明ごとに発明者から特許を受ける権利を承継している会社、特に何も決めていないのに会社名義で出願してしまっている会社もある。いずれにせよ「従業員の発明でも、権利自体は会社のモノ」と考えられていることは多く、そのため、願書の「発明者」欄は軽視されてしまうことがある。
「発明者」の欄が本当の発明者でない場合に生じる問題とは何か。まず、ある特許について、本当の発明者から特許を受ける権利を承継せずに出願していた場合には、その特許は無効事由を有する。また、本当の発明者ではない者が、特許を受ける権利を不当に得たり、それと引き換えに会社から発明報奨金などの利益を得ることは横領的ともいえる。
さらに、本来は得られるはずだった発明者としての評価や、発明報奨金などの利益を得られなかった本当の発明者のモチベーションの低下も重大な問題だ。求心力、生産性に悪影響を及ぼし、人材流出にもつながるだろう。本当の発明者が退職後に発明者としての地位確認や発明報奨金の支払いなどを請求し、トラブルとなることも考えられる。
以上のような問題点を部長に指摘し、是正を進言するというのが、この問題を解決するための正攻法ではあるのだが、「それが言えれば苦労はしない」という人も多いだろう。
そこで活用したいのが、弁理士などの外部の専門家である。これを書いたら「いや、我々はそういう『代理業』じゃないから!」と怒る弁理士さんもいるかもしれないが、「社内で言うと角が立つ、知的財産にまつわる正論」を、代わりにガツン言ってもらうとしたら、最も適任なのは弁理士だ。
弁理士と実際に出願の打ち合わせをするのは、本当の発明者であることが多いだろう。もし、発明者名義問題を社内の自浄作用によって解決できないならば、「先生から部長に言ってやってほしい」と依頼してみよう。
当然部長としても、瑕疵(かし)のない特許、トラブルの種にならない特許を成立させたいと思っているはずだし、そのために、出願代理人として弁理士を頼っている。正しい発明者を願書に記載するよう弁理士から指導を受ければ、耳を傾けざるを得まい。
「この発明者は正確ですか。部長が名目だけの発明者に君臨しても、トラブルの元になるだけです。本当の発明者を大事にして、クリーンな特許と社員の士気向上を同時に目指しましょう!」
そう言ってもらえれば、本当の発明者は救われる。ちなみに、この記事を上にして、これ見よがしに部長のデスクに置いてくれてもOKだ。
【1級知的財産管理技能士 友利 昴】
ともり・すばる 作家。企業で知的財産業務に携わる傍ら、知的財産を中心に幅広い分野で著述活動を行う。主な著書に『それどんな商品だよ!』『へんな商標?』など。1級知的財産管理技能士(ブランド/コンテンツ)。
(2017/4/28 05:00)