(2023/2/10 05:00)
1700万人とされる「就職氷河期世代」のうち、少なくとも50万人が不本意ながら非正規雇用者になっている。岸田文雄政権は学び直し(リスキリング)から転職までを一気通貫で支援する制度の新設や、正規雇用への転換を進める企業への支援の拡充などを検討している。これまでの政府の氷河期世代対策は成果を上げてこなかった。過去の政策を点検しつつ効果的な施策を策定してもらいたい。
氷河期世代はバブル崩壊後の1990年代から2000年代に就職活動を行った世代。政府は氷河期世代の正規雇用者を20―22年度の3年間で30万人増やす目標だったが、昨春に達成時期を24年度に2年先送りした。昨春までの実績はわずか3万人程度だった。コロナ禍が影響したとはいえ、目標には程遠く、戦略の練り直しが求められる。
公務員の採用試験では氷河期世代の採用が進んでいる。同世代に限定した中途採用試験で、国家公務員は20―22年度に計562人を採用、目標の450人を上回った。地方公務員も20、21年度に計1224人と当初見込みの581人より倍以上も多い。「隗(かい)より始めよ」で成果を示した採用活動を産業界にも広く波及させる必要がある。
政府は職業訓練や学び直しを通じ、企業間・産業間の労働移動を円滑化したい意向だ。総合経済対策には正規雇用への転換や、より高い賃金で新たに雇用する企業への支援を拡充することを盛り込んだ。また学び直しと転職を支援する制度の創設、キャリア形成を支援する企業への助成率引き上げなども示しており、これらの対策を詰めた上で6月をめどに労働移動円滑化に関する指針をまとめる。
岸田政権はこれまで少子化対策について、児童手当の拡充など「給付」に軸足を置いてきた。だが給付以前に安定的な経済基盤を築けなければ出産・育児に踏み切りにくい。ここにきて非正規雇用の正規化も重視し始めたのは適切な判断だ。経団連は以前から氷河期世代の採用を会員企業に呼びかけてきた。政権は効果的な制度設計により産業界を後押ししてほしい。
(2023/2/10 05:00)