ファインブランキング(FB)は高精度・多機能な部品の大量生産に適した精密プレス加工技術である。従来は単に打ち抜くだけの加工であったが、自動車部品を中心とした最近のニーズに応え、冷間鍛造、曲げ、絞り、バーニングとの複合・多工程加工が当たり前になりつつある。今後はハイテン材対応、材料歩留まり向上などの技術開発が必須となる。そこで今回は、東京都立大学の西村尚名誉教授に「高付加価値化を目指すファインブランキング」と題して、FBの課題とそれを解決する技術について解説してもらった。
FBはスイスで生まれた精密プレス加工技術で、時計の歯車を打ち抜きで作っていた。FBプレス機械は液圧式の三動プレスであり多軸加工が可能である。加工目的は当初の精密全せん断面打ち抜きから、板材の3次元形状へ冷間鍛造などを複合した打ち抜き+造形へと変化してきた。加工エネルギーの多くは造形に使われている。加工対象部品は90%以上が自動車部品である。そのために加工機械、型、材料はこの20年で大きく様変わりしてきた。素材板厚も当初の数ミリメートルから最近では15ミリメートル程度まで使われるようになり、FBは厚板鍛造へと変わってきた。
従来のFBプレスは3軸中1軸しか加工に使われていない。残りの2軸は板を押さえるために使われていた。そのために加工力は汎用打ち抜きに比べて1・8倍になる。最近、自動車部品を中心として実用化が始まった「ワンストロークフォーミング」では、上下に複数の圧力発生源を組み込んだ高剛性油圧多軸サーボプレスを使って、素材は1カ所にとどまって成形部位ごとに適した圧力と速度でワンストロークの中でタイミングをずらして成形する。
この技術では製品の同芯度が高まり、材料歩留まりが改善され、以前より成形荷重を著しく低減できる。そのため、設備投資額の低減も可能になるだけでなく、以前より成形荷重を少なくでき、設備費用が低減できることが特徴である。プレス機も工作機械と同様に多軸化の流れが始まった。
せん断加工は材料の変形する部分が狭い、加工速度が速い、加工部が見えない金型内部での変形になるなど解析が難しく、基礎研究は進んでいない。
せん断加工面のダレ、せん断面での材料流れの可視化、静水圧効果が重要視されているが、静水圧は切れ刃部分のみに必要であるのに切れ刃のどの部分にどのくらいの静水圧が加わっているか、切れ刃部分の加工温度がどのくらいなのかも可視化が難しいため、分かっていない。
潤滑効果にしても、塑性加工で唯一摺動(しゅうどう)面に油を塗れない加工法であるため、板表面に塗った油がどのようにして切れ刃部分に到達するか、知りたいところである。
自動車部品を中心として、最近のユーザーニーズに対応するためにFB加工も単に打ち抜く加工法から冷間鍛造、曲げ、絞り、バーリングとの複合・多工程加工が当たり前になってきた。写真1に順送複合加工事例を示す。
型技術では順送金型による横方向順次加工から縦方向順次加工のワンストローク複合加工法が開発されて、自動車部品への適用が進んでいる。板材でありながら増肉加工ができるようになり、軽量化に貢献している。軽量化には堕肉(だにく)の排除が有効であるが、板製品では積極的に肉厚を変えることができなかった。三動プレスを活用した厚板の鍛造技術によって減肉・増肉が可能になった。
FBの欠点である材料歩留まりの悪さを補うため、板側面方向からつぶすタブレット鍛造法が開発された。板厚2・3ミリメートルの板側面からつぶして歩留まり100%の粗形材を作り、その後、鍛造・打ち抜きをして仕上げコンロッドを作っている(写真2)。通常のFBに比べて材料を61%低減できた。
FB製品で最近要求されているのが、ダレの少ないせん断切り口面である。ダレは写真3に示すように凸型面に大きく発生し、その大きさは、材質、先端アール、先端角度によって影響される。防止策は板厚方向への引張力を減らすためのクリアランス調整と潤滑技術である。
従来のFB加工ではV字突起、板押さえ、逆押さえ、極小クリアランスの組み合わせによる型設計手法は変わっていないが、今後はハイテン材対応、材料歩留まり向上などの技術開発が必須で、前述のような新技術はますます重要になる。
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