[ 機械 ]

切る・削る・磨くで活躍 ダイヤモンド・cBN工具

(2016/11/7 17:30)

 自動車、電子・半導体、産業機械、建築など多岐にわたる分野の切る・削る・磨くの工程で、ダイヤモンド工具や立方晶窒化ホウ素(cBN)工具は無くてはならない存在だ。機械加工の高能率化、高精度化とともに、材料の多様化、難削化が進む中でダイヤモンド工具に対する要求も高まっている。

  • ダイヤモンド・cBN工具の国内生産額

ダイヤモンドとcBNの特徴

 ダイヤモンドは地球上に存在する天然資源の中で最も硬い。古くからその強度特性や耐摩耗性の高さといった特徴を生かし、加工工具として使われてきた。ダイヤモンド工具の素材は大きく二つに分けられる。その一つの天然ダイヤモンドは、生成条件、産出地域などが限られる原石。装飾品などに使われないものが工業用となる。 もう一つの合成ダイヤモンドは、用途に合わせ最適な特性を作りだせ量産が可能だ。1955年に米GEがダイヤモンドの合成に始めて成功し、粉末状のダイヤモンドが砥石原料として使われ始めて以来、入手しにくくなった天然ダイヤモンドに替わり工業用として普及している。

 これらはワイヤや電線などを加工する伸線用の工具であるダイス、旋盤などの切削工具であるバイト、研削用砥石(といし)の目直しや形直しに使われるドレッサー、ドリルの刃、鋸(のこぎり)、研磨材などさまざまな形で使用される。特に硬くて脆い材料では加工度合いをコントロールする必要があるため、合成ダイヤモンド工具が活躍する。

 人工的に作られたダイヤモンド結晶構造材料を素材とするcBN工具は、熱化学的な安定性でダイヤモンドより優れる。炭素の代わりにホウ素や窒素から成るダイヤモンド結晶構造材料を使用したもので、Cubic Boron Nitrideの頭文字をとっている。合成ダイヤモンドと同様、高圧高温化でダイヤモンドに次ぐ硬度の素材に合成される。ダイヤモンドと比べ鉄との反応性が低く、耐熱性や機械的強度に優れ、広く鉄系素材の加工に用いられる。

 合成ダイヤモンドの微結晶を金属やセラミックスなどの結合材と一緒に高温・高圧で焼き固めたものが多結晶のダイヤモンド焼結体(PCD)。極めて強度に優れ硬いため切削工具の先端部分に取り付ける刃物などとして数多く使用されている。非鉄金属、複合材の高精度切削などでは欠かせない。同様にcBNの微結晶を結合材と焼結したものがPcBNで、高温時の変形や摩耗に非常に強いため焼き入れ鋼など難削材の加工に用いられる。

多彩な場面に使用広がる

 ダイヤモンドやcBN工具の活躍フィールドは広がっている。自動車部品ではエンジン基幹部品での研削や切削、ガラスの面取りなど、半導体製造工程ではインゴットをスライスし研削するウエハー製造からデバイス製造工程までさまざまな場面で使われる。省エネ時代のキーデバイスとして期待されるパワー半導体用素材である炭化ケイ素(SiC)のスライスにも必要だ。 スマートフォン一つを見れば、本体加工からタッチパネル部やガラスパネル、内部の半導体基板など各要素部品の加工で、ダイヤモンド・cBN工具の活躍があって仕上がっているとも言える。

 ダイヤモンド工具市場全体の生産動向をみると、経済産業省の生産動態統計調査の機械統計では、2015年(1-12月)の国内ダイヤモンド工具生産額は前年比1・4%増の703億9600万円、cBN工具は同5・0%増の252億7600万円。合わせて956億円規模の市場であり、構成の多くを占める研削ホイール、切削工具など機械や自動車関連の生産動向が大きく影響する。

 また財務省の貿易統計では15年の輸出額が前年比8・2%増の510億円。国内生産品の多くが輸出され海外で使われている。メーカーにとっては増える海外市場に高精度品をいかに提供するかが今後の大きなテーマだ。

新規開拓に向けて

 ダイヤモンド・cBN工具は省エネや安全、超精密など、時代が求めるニーズを満たす製品づくりに必要とされる。ただ、追い上げるアジアのモノづくりレベルが向上していく中で、国内ダイヤモンド工具メーカーはより速くニーズを取り込むための新規開拓が必須となっている。

 例えば代表的なダイヤモンド工具メーカーの一つ、アライドマテリアルは今後の市場をにらみ「機械メーカーとの連携、他の工具メーカーとの連携」(小原利夫取締役)を重要視する。仕上げ工程に用いられることが多いダイヤモンド・cBN工具も、モノづくりの川上の開発段階から提案していくことが求められているという。省スペース化、高能率、原価低減などが課題となる中で「機械メーカーや工具に求めている要件を把握し、可能性を広げていく取り組みを増やしていきたい」(同)と強調する。

 今後は自動車産業で進む軽量化や騒音レス化に貢献する工具、次世代の自動運転車に搭載されるセンサー用光学レンズの加工向け工具、難削材を多用した高精度部品の固まりである航空機産業向け工具などの受注拡大が課題となる。これらは日本のダイヤモンド工具メーカーが競って、受注を追い求めていく分野とみられる。

研究室ちょっと訪問/明治大学理工学部機械情報工学科 専任講師 田辺実氏

  • 専任講師 田辺 実氏

超砥粒ホイール 高精度化で普及拡大へ

 世界で最も硬い物質であるダイヤモンドや、ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つcBN。中でもダイヤモンドやcBNの砥粒で製造した「超砥粒ホイール」と呼ばれる砥石の登場は研削加工技術を飛躍的に向上させた。その極めて特徴的な性質や使用技術が広く知られ産業界での利用が増え、現在ではダイヤモンド・cBN工具市場生産額全体の中でも超砥粒ホイールが3割以上を占める。そこには大学研究者の研究成果も役立てられている。

 明治大学理工学部機械情報工学科の田辺実研究室では、超砥粒ホイールを一般砥石などと比較した加工メリットをデータを積み重ねてまとめている。超砥粒ホイールは摩耗せず研削できるため高精度化が図れ、ホイールの小径化や研削盤の小型化につながる。また砥石の目直しが激減でき、生産性改善やコストダウンも図れる。研削量、疲れ強さ、表面性状の比較などさまざまな調査を手がけてきた。大手自動車メーカーのトランスミッションギアの研削試験でも数々のデータから小型化できることが示され、実用化されている。

 現在、精密工学会の超砥粒ホイール研究専門員会のとりまとめなども行う田辺氏は、この分野の研究を先駆的に進めてきた故横川和彦教授の研究室に入ったことがきっかけで現在に至る。長年の研究成果は「今日の超砥粒ホイールの普及に役立てられてきた」(田辺氏)と振り返る。

 今後も学生に機械工学の楽しさを伝えるとともに「技術交流を重ねて、加工適用分野を広げていきたい」としている。

(2016/11/7 17:30)

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