[ オピニオン ]

【電子版】デジタル編集部から(52)つなげることの先へ、米パロアルト研究所CEOが語る「産業IoT」

(2017/6/16 18:00)

  • 米パロアルト研究所(PARC)のトルガ・クルトグルCEO

「IoT(モノのインターネット)は単にセンサーや機器といったモノをインターネットで接続することではない。そうしたアプローチはかなり陳腐化している。とくに産業IoTでは、ネット接続のデバイスやセンサー、それに人工知能(AI)などのマシンインテリジェンスを統合しながら、どうやってビジネス価値を創出していくかがカギになる」

レーザープリンターからイーサネット、アップル創業者のスティーブ・ジョブズがアイデアを盗んだパソコンのグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)、それにオブジェクト指向プログラミングなど、IT分野中心に数々の発明を生み出したことで知られる米ゼロックス傘下のパロアルト研究所(PARC=パーク)。同社のトルガ・クルトグルCEOは、野村総合研究所と5月31日に都内で共同開催したセミナーで、産業IoT(モノのインターネット)の重要性についてこう指摘しました。

同CEOによれば、産業IoTをリードする業界は、トランスポーテーション(輸送)、製造、ヘルスケア、インフラ、エネルギーの5つ。さらに、これらの業界へのIoT導入の目的として、①ビジネスプロセス最適化による「生産性の向上」②GEが航空機エンジンの販売から保全サービスにシフトしたような「新たなビジネスモデルの創出」③自動運転、ドローン、スマートインフラ、スマートシティーのリアルタイム制御に役立つ「マシンインテリジェンスの活用」−−が共通するといいます。

一方で、PARCが産業IoT向けに研究開発を進めている案件もあります。中でも積極的に投資しているのが「サイバー・フィジカル・セキュリティー」。ドイツのインダストリー4.0では、コンピューター空間(サイバー)と現実世界(フィジカル)の情報をデジタル技術で緊密に結びつけ、サイバー空間で効率的な処理を行い、その結果を現実世界に戻す「サイバー・フィジカル・システム(CPS)」が中核概念の一つとされている。そこで、「CPSのセキュリティーが決定的な要素になる」(クルトグルCEO)ことから、ほかのパートナーと共同で研究に力を入れているとのこと。

さらに、技術を組み合わせ、機能を統合することがビジネス価値の創出につながるとの観点で、プリンテッド・エレクトロニクスを応用し、超小型ガス漏れ検知センサーも開発。低コスト・高性能で低消費電力のため、大量に利用してガス関連のインフラや精製設備などに組み込み、ガス漏れで深刻な事態につながるのを未然に防ぐことができる。

また、バッテリー監視技術の「S.E.N.S.O.R(センサー)」は、リチウムイオン二次電池の内部に光ファイバーセンサーを埋め込み、そこから得られる電磁波の周波数の変化をアルゴリズムで分析することで、セル自体に影響を与えず、セルに不具合が起きていないか内部の状況をリアルタイムに把握できるというもの。

ハイブリッド車や電気自動車(EV)だけでなく、飛行機や人工衛星、電力系統向け二次電池、軍用車両などにも応用可能で、パートナー企業の米ゼネラル・モーターズ(GM)とは、EVのリチウムイオン二次電池にこの技術の採用を進めているという。

そのほか、スマートトランスポーテーション(輸送)については、JR東日本をパートナーに共同で取り組んでいる。システムのモデル化とデータ分析を統合したPARCの状態監視保全(CBM)技術により、電車のドアなどが故障する前に異常を検知するのに役立てているといいます。

国内でも産業分野へのIoT導入の機運は高まっているものの、センサーや機器をつなげ、工場現場のデータを吸い上げることで「IoTを導入した」と満足している企業が少なくありません。それに対し、同CEOは、「今後の10年でサイバーとフィジカルの世界が統合されて扱われるようになる。産業IoTはそうした未来で中心的な役割を果たす」と力説しました。

IoTでは標準的な仕組みでデバイスを「つなげる」ことももちろん大切です。それに加えて、新たなデバイスの開発やマシンインテリジェンスの活用、そして何よりビジネスモデルを含めた新たな価値の創出など、「つなぐことの先」を見据えた取り組みが、産業や社会の未来を切り開いていくのは間違いありません。

(デジタル編集部・藤元正)

(2017/6/16 18:00)

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