[ オピニオン ]
(2017/8/14 05:00)
1990年代初期に電機業界を担当していた頃、川崎市と東京都立川市を結ぶJR南武線に毎週のように乗った。あるメーカーの事業戦略の行方を先輩記者と話していると、スーツを着た複数の乗客が必ず我々をジロリと見た。
考えてみれば当たり前だ。沿線には東芝、NEC、富士通、日立製作所などの事業所や各社の関連会社が点在し、サラリーマン風の乗客はそこに勤めている可能性が高い。我々は、よく主語抜きで会話した。
トヨタ自動車がこの夏、南武線各駅に中途採用の広告ポスターを掲出した。「あの先端メーカーにお勤めなんですか!それならぜひ弊社にきませんか」「シリコンバレーより、南武線エリアのエンジニアが欲しい」など、トヨタらしからぬ熱烈な誘い文句が並ぶ。
トヨタが技術者を引き抜こうとするのは、車の電動化や自動運転、コネクテッド技術などの開発競争が激化しているからだ。トヨタの技術者はエンジンなど機械系が大半であり、IT分野の即戦力として電機大手に目を付けた。
業績が悪化した東芝を筆頭に、元気のない電機業界に見切りを付け、転職する技術者は増えるだろう。ただ業界が光り輝いていた90年代に取材した身としては、複雑な気持ちになる。
(2017/8/14 05:00)