[ オピニオン ]
(2018/1/30 05:00)
とろっとしたつゆから立つ湯気が、寒い時季にはやさしい。島根県の名物、出雲そばのユニークなメニューが「釜揚げそば」。ゆで上がったそばをゆで汁、つまりそば湯と一緒に丼に盛り付けたものだ。
そのままでは味がついていないので、客は自ら好みの量だけそばつゆや薬味を加えてすする。出雲そばといえば、3段重ねの丸い塗り物に盛られた「割子そば」が有名だが、実は釜揚げもこの地方ならではの食べ方だという。
好みもあろうが、出雲の甘めのそばつゆは、割子よりも釜揚げの方がマッチしておいしい。そばの皮が混じって黒く平らな麺の食べ応えある食感は、思い出すと無性に食べたくなる時がある。
しかしふと食べたくなっても、本格的な出雲そばを出す店は案外と県外では少ない。競うようにそば屋がのれんを掲げる出雲市や松江市には、そば食の文化が根付いていると言っていいのだろう。現地を訪ねてこその味わいであり、楽しみである。
神話の世界を伝える多くの名所旧跡や特有の響きの出雲弁、そばやお茶文化などの洗練された嗜好(しこう)を守り抜いてきた出雲には、頑固さという魅力がある。曇り空が続くこの季節、街行く人が少ないのもいい。懐かしく訪れたくなる。
(2018/1/30 05:00)