[ トピックス ]

【電子版】経営戦略としてのIoT・第4次産業革命~ビジネス・システム・イノベーションの時代~(15)

(2018/3/30 05:00)

部分最適の総和が全体最適になるわけではない時代(上)

~会計的な管理(要素還元主義)とシステム的な管理との相違~

「部分最適の総和が全体最適となる」という前提は、大量生産大量消費の時代、環境変化がなく安定している際には、だいたい正しかった。環境変化のスピードが上がり、変化適応が必要となってきたために、この前提が崩れてきたのである。

日本の製造業は、規格大量生産の時代の「成功の復讐(ふくしゅう)」により、適応が難しくなってきているのではないだろうか。筆者は、日本の製造業は、多品種少量で変化に適応してきたTPS(トヨタプロダクションシステム)を創造したにも関わらず、産業全体としてはこれをモデル化し十分に理解するところまでは行われなかったと考えている。一方、当該マネジメントの本質をモデル化できたのは、むしろ必死で研究した欧米のビジネススクールの研究者だった。ビジネススクールにOM(オペレーションマネジメント)科目を設置し、研究と教育の体制をこの20年で構築したのである。

症状は大企業ほど重い。中小企業の経営者は、次回の(下)で採り上げる「中小企業の陥穽(かんせい)」の事例以外は、全部経営者が自ら担当しているので問題は起きない。経営者が担当するということは、全体最適で考えているからにほかならない。

(SCMの領域)

規格大量生産の時代では、製造原価(単位原価)最小、物流原価(単位原価)最小、売上げ最大という目標を、部分の機能組織である製造部門、物流部門、営業部門にミッションとして指示、部分がそれぞれ部分として頑張ればよい、と考えていた。

それぞれで最適化を目指すには、製造原価最小は稼働率最大、物流原価最小は大ロットでの輸送、売上げ最大では販売在庫最大、これらは全て、サプライチェーン上の在庫を拡大する方向へ働く。こうした考え方でかつては成功してきた。ところが、これにはある前提があった。サプライチェーンを通過する間で、原料や仕掛品、半製品の価値が劣化しないという条件である。

経営環境の変化が激しくなると、この在庫の価値が劣化し、当初の利益は上げられなくなる。つまり、在庫が不良在庫化する。部門の目標は達成されても、この在庫価値の劣化は、一体誰の責任だろうか。部門を越えた役員会だろうか。これは、OMをシステム全体として管理する部門が無ければ解決できない問題の最も典型的なケースである。

欧米のOMの教科書では、これを「トヨタから学んだ」ということで、財務的な目標だけでオペレーション設計はできない。つまり経営はできない、つまり「適合性の喪失」だと指摘している。指摘したのは、ハーバード大学のロバート・キャプラン教授で、全米管理会計学会の重鎮である。彼はその後、バランススコアカードを開発したことで極めて有名である。

(設備投資、ソフトウェア投資の領域)

設備投資・ソフトウェア投資の領域でも、「機能組織の部分最適で投資をしても、部分である組織だけでは効果が十分には得られないことがむしろ多いのではないだろうか。もちろん投資効果が企業全体に及ぶ場合に、その効果全体を推計すれば十分な効果が得られるわけだが、部分の部門単位での投資意思決定の際には投資は適当ではない」と判断されてしまうため、本格的な検討すら行われないケースが発生することがある。

在庫を削減するために、工場にIoT(例RFIDネットワークシステム)を導入し、スケジューラーに投資をする場合を考えよう。投資が発生するのは工場で、効果を得るのは、多頻度で計画変更が可能となり短いリードタイムで競争力を得た販売部門となる。この場合、多品種少量生産となり、段取り換え時間が増加するために、工場の製造原価(単位原価)は増加する。もちろん、企業全体としては売上が拡大し、利益が発生するが、工場や製造部門の投資意欲は乏しいケースが多いのではないか。

このほか、製品開発部門と生産技術部門、製造部門、アフターサービス部門で情報共有ができる3次元(3D)のPLM(製品ライフサイクル管理)システムを導入するケースを考えてみる。さて、日本では、どの部門が稟議をあげるのだろうか。製品開発・設計部門が考えそうだが、開発・設計部門は、開発設計の生産性しか目標になっていないことが多い。このため、「生産技術や製造部門で導入したければ導入したらよい。投資の負担はそれぞれで行う」という態度になる。これでは、「いやいや製造部門は2Dで十分だから、そんな高いシステムは必要ない」ということになりがちである。

これらのケースは、機能組織横断型でOMを考える主体、組織、リーダーシップがないことが、災いしている典型的なケースである。

(海外展開、PMIほか)

この結果、日本の製造業特有のビジネスモデルは、技術移転が容易ではなく、スケールしない事業モデルでM&Aや海外展開のスピードで敗れるということになりがちである。

(隔週金曜日掲載)

【著者紹介】

藤野直明(ふじの なおあき)

野村総合研究所 主席研究員

専門はSCM革新のコンサルティング。近年、第4次産業革命やIoT、オムニチャネルリテイリングでの調査研究・コンサルティング活動を、民間企業、産業政策双方の視点で行っている。日本オペレーションリサーチ学会フェロー、オペレーションマネジメント&ストラテジー学会理事、ロボット革命イニシアティブ協議会WG1情報マーケティングチーム・リーダー

(2018/3/30 05:00)

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