[ ICT ]
(2018/4/20 05:00)
エンタープライズソフトベンダー最大手のオラクルが、クラウドアプリケーションの強化に向けて人工知能(AI)の活用に乗り出した。果たして、競合他社のようにAI技術群をブランディングするか。
既存アプリケーションへAIを組み込む形に
日本オラクルが先頃、AIを搭載した経理・財務領域の拡張アプリケーション「Oracle Adaptive Intelligent Applications for Enterprise Resource Planning(ERP)」を発表した。
財務、調達、業績管理、発注管理、生産管理など、オラクルの統合基幹業務ソフト(ERP)クラウドアプリケーション「ERP Cloud」に含まれる既存の機能を強化するように設計されており、高度なデータサイエンスや機械学習をOracle Data Cloudやパートナーから得たデータに適用することで、取引業務の自動化やビジネスプロセスの合理化を支援するとしている。
発表会見に臨んだ日本オラクルの桐生卓常務執行役員クラウド・アプリケーション事業統括ERP/EPMクラウド事業本部長によると、「今回の拡張アプリケーションは米国本社が今年2月にニューヨークで開催したイベントで発表したもので、その際、オラクルとしては今後、AIなどの最新技術を個々のクラウドアプリケーションに最適な形で組み込んでいく方針を明らかにした」という。(図1)
さらに同氏は、ERPクラウドアプリケーションを例に図2を示し、AIを組み込むことでどのような機能が拡充されるかを説明した。図2の見方としては、ERPの三つの領域における機能において、黒字が既存機能、オレンジ色がAIによって新たに実現できる機能ということだ。これによって、「デジタル時代の経理・財務における業務自動化を支援していく」構えだ。
こうした図を示した上で、同氏はあらためて、「オラクルはこれまで、クラウドアプリケーションのポートフォリオの拡充に力を注いできたが、これからはERPをはじめとしたそれぞれのクラウドアプリケーションがAIなどの最新技術によってどれだけ便利になるかを訴求していきたい」と強調した。
ワトソン、レオナルド、アインシュタイン、オラクルは…
実は、オラクルのAI戦略については、本連載でも2018年2月23日掲載の第24回 「エンタープライズソフトベンダー“2強”のAI戦略」 と題して取り上げた。ただ、この時はSAPの話が中心で、オラクルについては2月のニューヨークでのイベントで、同社首脳が「2020年までにエンタープライズアプリケーションのほとんどにAIを搭載する」と語ったことを紹介しただけだった。
もちろん、エンタープライズソフトにおけるAI戦略はベンダーそれぞれに進め方があるだろうが、筆者が興味深く感じているのは、「IBM Watson(ワトソン)」「SAP Leonardo(レオナルド)」「Salesforce Einstein(アインシュタイン)」といったように、オラクル以外の大手はどこもAI技術群をブランディングしていることだ。こうした状況に、オラクルが黙っているはずがないというのが筆者の見方だ。
そこで、今回の会見の質疑応答で単刀直入にそのことを桐生氏に聞いてみたところ、「クラウドアプリケーションにおけるAI戦略については話せるが、AI技術群のブランディングについては、私の管掌ではないので回答を差し控えたい」とのことだった。
もし、ブランディングを行わないとしても、各社のそうそうたるブランドネームを眺めた上で、オラクルの創業者であるラリー・エリソン会長兼最高技術責任者(CTO)なら、なにか一言あるのではないか。その一言に、オラクルのAI戦略の核心が見て取れるかもしれない。
(隔週金曜日に掲載)
著者プロフィール
松岡 功(まつおか・いさお)
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT」の3分野をテーマに、複数のメディアでコラムや解説記事を執筆中。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌の編集長を歴任後、フリーに。危機管理コンサルティング会社が行うメディアトレーニングのアドバイザーも務める。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年生まれ、大阪府出身。
(2018/4/20 05:00)