[ オピニオン ]

社説/統合イノベーション戦略 若手支援は研究費の“ばらまき”で

(2018/8/3 05:00)

「若手研究者の支援重点化を競争的研究費全体で行う」とする方針を、政府の「統合イノベーション戦略」が掲げた。未来の科学技術の苗を多数、育てる上で、若手向けの研究費の意識的な“ばらまき”効果を期待したい。

総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が6月にまとめた統合イノベーション戦略は、科学技術力の議論に大学改革の切り口を入れたのが特徴だ。民間資金獲得の推進や大学の連携・再編とともに、若手の研究支援が柱だ。科学研究費助成事業(科研費)などそれぞれの競争的研究費で、若手の育成・支援を重視した仕組みの導入を検討する方針は注目に値する。

ノーベル賞受賞者の例を出すまでもなく、若手研究者が科研費などで手がけた基礎・基盤的な研究が種となり、芽を出して一大分野に育った研究は少なくない。CSTIの上山(うえやま)隆大議員は、「今はどんな分野の何がイノベーションにつながるのか予想できない時代だ。そのため少額でよいから若手に広く研究費を出し、研究基盤となる“苗床”をつくるのが最良の方法」と強調する。

若手の独創的な発想を基に、若手自身が研究主宰者となって手がける基礎研究は多額の資金を必要としない。1件当たり理系で500万円、文系で100万―300万円程度だと上山議員は説明する。

近年、選択と集中で競争的研究費は1件当たりの大型化が進み、大御所の年長研究者が代表となって何千万円、何億円と得るケースが増えた。若手はこのプロジェクトのごく一部で割り振られたテーマに取り組んでいるのが実情だ。今回の施策はこれを変えようとしている。国立大の運営費交付金による個人研究費の一律支援という形でなく、競争的環境下でのばらまきなのも興味深い。

未来に向けた研究投資はリターンの確約がない。とはいえ、国費を使う損失は抑えたい。適切な分散投資で、ここぞという段階になったら集中投資していく。そんな仕組みの整備を求めたい。

(2018/8/3 05:00)

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