[ オピニオン ]
(2019/1/17 05:00)
3年ぶりの株価下落の大発会で始まり、波乱の展開を予感させる2019年の日本経済は、国内外に数多くのリスク要因が待ち受けている。国内では10月の消費税率引き上げ、海外では米中の貿易摩擦がその代表だ。だが、不確定要素は多いものの、景気の現状から判断して、個人消費や設備投資といった内需にけん引される形で日本経済は緩やかな成長軌道を描く可能性が大きい。
現在の景気拡大局面は、12年12月に端を発し、すでに高度成長期の「いざなぎ景気」を超えた。今月末には02年2月から73カ月続いた戦後最長の記録を更新するのは確実だろう。良好な雇用情勢を背景に、個人消費が底堅く推移するほか、人手不足に伴う省力化需要の高まりや好調な企業業績に支えられて、設備投資も力強さを維持するものとみられる。
国内で最も大きな波乱材料は、今年10月に予定される消費税の引き上げだ。前回14年4月の増税では個人消費の反動減が大きかったため、今回も同様の事態が危惧される。しかし、増税幅が前回より小さい上、軽減税率が導入されるほか、自動車や住宅購入時の減税措置をはじめ各種の景気対策が講じられる見込みで、増税に伴う個人消費の大幅な落ち込みは避けられるもよう。
国内要因よりも深刻なのは米中貿易摩擦の激化だ。世界1位と2位の経済大国による貿易摩擦の背景には米中両国の覇権争いの側面があるため、解決には時間がかかるものとみられ、世界経済に不透明感を与える可能性が大きい。そうでなくても、すでに中国経済は減速傾向にある上、米国も08年末から景気減速の懸念が急速に高まっており、米連邦準備制度理事会(FRB)は従来の利上げスタンスを見直す意向を示している。こうした米中の現状は、わが国の輸出に深刻な影響を与えかねない。
今年のG20サミットは日本が議長国であるほか、近く米国との間で物品貿易協定(TAG)交渉も始まる。安倍晋三首相はこうした機会をとらえて自国優先の保護主義的な通商政策に警鐘を鳴らし、自由貿易の重要性を訴え続けて米中両国の関係改善に尽くしてほしい。
このほか欧州には英国の欧州連合(EU)離脱、イタリアの財政不安、フランスの政情不安などのリスクがある。いずれも経済不安の引き金になる恐れがあり、特に英国のEU離脱が円満に行われない場合は、無秩序な離脱となり、英国やEUへの経済面の打撃は計り知れないものがあり、その影響は当然、日本にも及ぶことになる。
景気回復は長期化しているものの、消費者物価指数の上昇率は政府・日銀が目標とする2%に遠く及ばない。安倍首相は産業界に対して賃上げの継続を要請しており、賃上げが消費拡大、企業収益拡大といった好循環を生むことに期待をかけている。
企業は政府に言われるまでもなく、良好な収益状況を生かして賃上げに応じるとともに、人材開発や研究開発を含む設備投資を通じて生産性向上に努め、収益増大、消費拡大という好循環の実現を目指してほしい。そうした好循環なくして一層の経済成長の押し上げは期待できない。(川崎一)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります)
(2019/1/17 05:00)