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(2019/3/21 05:00)
米国と中国による貿易戦争が繰り広げられる中で、日本企業はどうしていくべきなのか。知的財産戦略を経営の根幹に据えて、知財と事業が一体となった経営に転換していくことが求められている。一方、産業界と政府、法曹界などが連携して、知的財産を巡るグローバルな企業間紛争を国内で解決しやすくする制度など、知財活用を後押しする環境づくりが課題となる。
液晶パネル、リチウムイオン二次電池などは、かつて日本企業が技術開発で世界をリードし、市場を立ち上げ、一時世界シェアを独占した。その後、これらは数年から10年の短期間でシェアを急激に失い、アジアとの競争で苦戦を強いられた。
技術経営(MOT)に精通した小川紘一氏がまとめた「プロダクト・イノベーションからビジネス・イノベーションへ」(東レ経営研究所2010年4月号)によると、カーナビゲーションシステムは、03年に日本企業のシェアはほぼ100%だったが、4年後の07年に約20%まで落ち込んだ。この間、企業が知財に手をこまねいていたわけではない。カーナビは相当程度の特許投資をしても、シェアが低下した。
MOT分野は、「プロダクト・ライフサイクル」という考え方がある。新製品の「導入期」は、その製品が市場に浸透するまで売り上げにつながらない。ニーズが高まると、売り上げが急激に伸び、先行者が利益を得る「成長期」に入る。ただ、魅力的な市場に新規参入も増え、市場規模は拡大し、価格競争も激しくなり「成熟期」に移る。最後は市場規模、利益率ともに低下し、製品市場は寿命を終える「衰退期」を迎える。
知財戦略も同様なステージがある。導入・成長期にある事業なら、開発投資を進めて特許を量産する、日本企業が得意とする戦略が有効だ。問題は、衰退期に近づいた事業の場合、こうした戦略は難しい。必須特許を取得しにくいためだ。この場合、機能性とは別の付加価値で勝負するか、技術革新を起こし衰退期から導入・成長期へさかのぼるなどの戦略が必要だ。事業の知財ステージに応じた知財戦略によって、道は開けてくる。
一方、企業だけでなく、企業の知財競争力を高める仕組みが求められている。日本企業は海外での訴訟を迫られるケースが多く、負担が重くなっている。重要な特許ほど複数の国にまたがるケースが増えている。日本企業が相手国で裁判を起こされて、その判断が事実上日本にも影響を及ぼすケースや、日本企業が特許を侵害された場合、どの国の裁判所に提訴するかなど、企業の知財をめぐる訴訟は右肩上がりだ。
ただ、特許庁によると、国内企業間を含めて日本での特許訴訟件数(第一審ベース)は16年度が166件で、米国の5080件の約30分の1に過ぎない。米国の場合、訴訟コストも日本に比べて高い。日本企業にとって、訴訟コストの軽減が課題になっている。
グローバルな紛争解決の舞台として、日本の存在感が薄くなってしまっている現状に法曹界などの危機感もある。日本企業の知財戦略を後押しする制度を整えていくことが重要だ。(幕井梅芳)
(このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります。【電子版】「論説室から」の掲載は、今回でおわります)
(2019/3/21 05:00)