(2019/10/17 05:00)
予期しない事態に対峙(たいじ)したとき「ありえない」という先入観や偏見が働き、物事を正常の範囲内と認識する。この正常性バイアスが災害時の避難行動を遅らせると聞いていたが、それを台風19号で自ら体験した。
自宅近くに荒川の支流がある。昼頃から降りだした雨は日没が近づくにつれ激しくなる。「河川が氾濫する危険性が高まっています」―。自治体のアナウンスは避難準備から避難勧告に変わった。
窓から外の様子をうかがうと、人気はなく、道路の冠水もみられない。避難所の中学校まで徒歩で10分ほどかかる。億劫(おっくう)さも手伝って、まだ避難しなくても良いという判断に傾いてしまった。
幸い、河川は氾濫せず事なきを得たが、防災のハードルは自分の中にある「最悪事態への想像力の欠如」と実感した。東京・大田区の経営者も「多摩川の堅固な六郷土手が崩れるはずがない」と避難指示が出ても逃げなかったと話す。
温暖化の影響もあり台風は勢いを増す。ハードの治水対策では被害を食い止められない未知のフェーズに入ったのかもしれない。「道路が冠水してからでは逃げられない」「浸水から1時間で水が1階の天井まできた」。被災者の貴重な証言をソフト対策に生かしたい。
(2019/10/17 05:00)