(2019/11/26 05:00)
インフルエンザが全国的な流行期に入った。産業界にとって病欠者が同時期に多数出かねない状況は脅威であり、予防や重症化リスクの低減が求められる。来夏には東京五輪・パラリンピックの開催で訪日外国人が急増し、重篤な感染症が広がる懸念もある。インフルエンザへの対策を講じるだけでなく、感染症を取り巻く多様な問題に目を向ける姿勢が必要になる。
15日にインフルエンザの流行入りが発表され、統計開始後2番目の早さとなった。発病の抑止や重症化予防にはワクチンが有効だが、接種すれば絶対にかからないというわけではない。日常の体調管理や外出後の手洗いなどを着実に行いたい。
ただ、この冬を越しても感染症対策は終わりではない。来年夏の五輪開催時は、従来あまり訪日実績がなかった国や地域の人々も集まる。訪日客からの持ち込み増加の可能性がある感染症には、侵襲性髄膜炎菌感染症や中東呼吸器症候群など、なじみの薄い疾患も多い。政府はこうした感染症の発生情報を自治体間で即時に共有する仕組みの整備を目指してきたが、実効性発揮に向け関係者間の連携強化が求められる。
中長期的には、抗菌薬(抗生物質)が効かなくなる薬剤耐性(AMR)感染症への対策も必要だ。ヒトが抗菌薬を医師の指示通りに服用しないと、多くの抗菌薬が効かない細菌が発生するリスクが高まる。対策ができない場合、2050年にAMR起因の死者が世界で1000万人に上ると推計されている。
使える抗菌薬の種類が増えない限り、耐性菌拡大を阻止することは難しい。製薬企業による新薬開発が期待されるものの、感染症領域は必ずしも事業化の意欲が高まらない。感染症は治ったら薬が必要なくなり、生活習慣病の薬のように長期間は使われないためだ。新薬創出につながる有望な研究開発案件を国が支援する枠組みの強化が望まれる。
生活者もこうした実情を知って感染症対策を考えることは意義がある。今冬のインフルエンザ予防を一つの機会にしたい。
(2019/11/26 05:00)
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