(2019/12/2 05:00)
スーパーコンピューターの省エネ性能を競う世界ランキング「グリーン500」で、富士通と理化学研究所(理研)が共同で開発するスパコン「富岳」のプロトタイプ(試作機)が1位を獲得した。富岳は超スマート社会「ソサエティ5・0」を支える研究基盤としての貢献が期待される。2021年頃の本格稼働に向け、着実な一歩を踏み出したことを評価したい。
富岳は、11年にスパコンの性能ランキング「トップ500」で世界最速の座を射止めたスパコン「京(けい)」の後継機にあたる。トップ500が究極の演算速度を競う「フォーミュラワン(F1)レース」とすれば、グリーン500は消費電力重視の「クラス別レース」といったところだ。
今後スパコンの頭脳を担う中央演算処理装置(CPU)の数を増やし、速度競争にも参戦するが、あくまで富岳が掲げる開発目標は、省電力、高いアプリケーション(応用ソフト)性能、使い勝手の良さの三つ。
両者がそこにこだわる背景には、京での教訓がある。京の頭脳部は「スパーク」と呼ぶ高性能サーバー用のCPU仕様をベースに、独自に作り込むことで、スパコンで主流のインテル製CPUなどを上回り、世界最速を達成した。だが、独自仕様が弊害となり、市販のアプリがそのままでは動かず、仲間作りでは苦労した。
これに対して、富岳は英ARMと共同開発した新型64ビットCPU「A64FX」を採用した。A64FXはハードウエアとして独自の工夫はあるが、アプリを動かす上で重要な「命令セット」はARM標準に基づく。ARM仕様はオープンソースの開発団体などの仲間が多く、動くアプリの数も多い。
スパコンの頭脳に、アーム仕様のCPUを採用する動きは他にも出始めているが、A64FXは性能面で群を抜き、人工知能(AI)処理にも優れている。世界最速への挑戦とともに、仲間作りや使い勝手などで、富士山のように裾野を広げ、実用面でのブレークスルーにも期待したい。
(2019/12/2 05:00)