(2019/12/30 05:00)
ヘリウム不足を、産学官連携で乗り越えていくべきだ。
日本物理学会や国立大学など計47機関は、需給が逼迫(ひっぱく)するヘリウム危機への対応を呼びかける緊急声明を出した。
ヘリウムは沸点がマイナス269度Cと全元素の中で最も低い。材料を液体ヘリウムに浸すと、蒸発熱などで極低温に冷やされる。超電導や量子効果を生み出す低温工学で、加速器ビームラインや核磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などに広く使われている。産業界でも、半導体や光ファイバーの製造や溶接、リークテストなど広範囲で活用されている。
全量を輸入に頼るヘリウムの入手難と価格高騰は、以前もあったが、今回は一時的なものではなく、長期的構造的なものだ。声明では、ヘリウム不足にはリサイクルが必要で、それに向けた予算措置や規制緩和を求めている。
実は大規模な研究機関にはヘリウムの再生設備が置かれ、回収率は9割などとなっている。学術コミュニティーに貢献する使命を持つ「大学共同利用・共同研究拠点」の一つ、東京大学物性研究所は、そのリーダー格で、10月から自らの設備で、学外のヘリウムガスを受け入れて再液化する事業を始動した。
まず中小規模の研究機関や企業で、液体からガスになったヘリウムを回収バッグに集め、圧縮して高圧ガスボンベに保管しておいてもらう。これを産業ガスメーカーが物性研に運ぶ。物性研の液化設備でガスを液体にし、それをガスメーカーがユーザーに届ける仕組みだ。
ところがここで、高圧ガス製造保管の免許を持つ責任者が必要なことが、特にユーザー企業でハードルになるという。物性研は「ユーザーが免許なしで済むよう、小型のガス圧縮機を開発し、トラックに積んで搬送できないか」「ヘリウムは安定な物性であり、高圧ガス保安法の適用除外に変えられないか」などを議論している。
この取り組みは、学術研究機関が産業界や政府に働きかけるまれな事例だ。解決に向けて関係者の認識を高めてほしい。
(2019/12/30 05:00)