(2020/1/23 05:00)
江戸中期、平賀源内は秩父山中で採取した石綿を原料に香を焚く「香敷き」を試作し幕府に献上した。さらに燃えない布を織ろうとして失敗したという。源内の評価には功罪あるが、先見性には驚かされる。
石綿は耐火性だけでなく耐摩耗性、耐薬品性に優れ、安価で加工しやすい。「魔法の鉱物」ともてはやされ、高度経済成長期を中心に国内で約700万トンが建材に使われた。ところが製造時や建物の解体時に出る細かな繊維を吸い込んで中皮腫で亡くなる人が出ると評価は一変する。
厚生労働省によると、2017年の中皮腫による死者は1555人。20年前に比べて約3倍に増えた。しかも潜在的な患者が多く、まだピークに達していないという恐ろしい予測もある。
既存の建築物には現行法の対象外のものがある。多いのは石綿含有建材が使われる工場や倉庫の屋根や天井材。環境省は解体時に飛散防止などの安全対策を受注業者に義務づけ、違反者への処罰も盛り込んだ大気汚染防止法改正案を今国会に提案する。
発症まで20―50年という潜伏期間の長さから「静かな時限爆弾」とも呼ばれる石綿。その危険性は開発精神にあふれる源内も想像できなかったろう。一日も早い対策を求めたい。
(2020/1/23 05:00)