(2020/3/5 05:00)
素粒子物理学の国際プロジェクトである超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の国内誘致が膠着化している。
ILCは質量を与える素粒子「ヒッグス粒子」を発生させる大型施設。発生したヒッグス粒子を調べることで宇宙誕生の謎に迫れると期待されている。
国内の科学コミュニティーを代表する日本学術会議は1月、大型施設計画推進を求める提言を公表。「速やかに実施すべき重点大型研究計画」にILCを選ばなかった。文部科学省は、2月21日に米国で開かれた加速器の国際会議でILC計画の検討状況を報告。「一定の学術的意義を認め、米欧と意見交換する」という慎重姿勢に留めた。
ヒッグス粒子は2012年に欧州原子核研究機構(CERN)で発見され、13年のノーベル物理学賞を受賞した。同時期に学術会議はILCの国内誘致に関し「学術的意義は認められるが、実施のゴーサインを出すのは時期尚早」との見解を示し、数年かけ調査、検討するとした。
その後6年以上検討が続くが結論は出ていない。その理由の一つが、8000億円とも言われる巨額の建設費だ。ホスト国の日本は半額を負担することになる。財源確保のため「研究費を削られるのではないか」と国内の研究者は神経をとがらせている。
文科省は19年4月、米エネルギー省(DOE)と意見交換し、米国側は「日本がILCを誘致する場合には支持し、現物貢献が可能」としていたが、現時点で具体的な貢献の表明はない。さらに2月7日には、英・フランス・ドイツの政府機関と意見交換を実施し、3機関から「現時点でILC計画に参加する資金的余力はない」との突き放したコメントがあった。研究者レベルでは日本への誘致を期待するが、国レベルでは成果に見合う投資とみていない。
基礎研究への投資の重要性が叫ばれているが、多額の税金を投入するには国民全体の合意が必要だ。まずは欧米が前向きな姿勢になるかを見極める必要がある。そのうえで政府は正しい判断を下してもらいたい。
(2020/3/5 05:00)
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