(2020/3/9 05:00)
突出したIT人材を発掘、育成する役割を評価したい。
経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が推進するプロジェクト「未踏事業」が20年を迎える。出身者が相次ぎ起業し、大手企業の協業相手としても存在感を増している。
未踏は、2000年度に始まり約1700人を輩出した。これをきっかけに起業したスタートアップの企業価値は総額で約6000億円とされる。ビッグデータ解析、ロボットソフト開発など、これからの社会に欠かせない革新的な技術やサービスを提供している。
先進技術を導入し、既存事業に新たな価値を見いだしたい大手企業にとって未踏発スタートアップは有望な協業相手。筆頭格であるプリファード・ネットワークス(PFN)の人工知能(AI)技術はトヨタ自動車やファナック、JXTGホールディングスなどから一目置かれ、次々と手を組んでいる。
自社サービスは終了することになったものの、新たな社会インフラ構築の一翼を担ってきた企業もある。メルカリ子会社傘下に入ったOrigami(オリガミ)。スマホ決済サービスの先駆けだが、大手IT企業の参入で競争は激化。再編の波にのまれた。くしくも両社は未踏卒業生が深く関わる企業だ。
新たな市場のパイオニアだから熾烈(しれつ)なビジネス競争にさらされるのは当然だ。20年を経て人材育成の成果があらわれはじめたからこそ、経営面での成否だけでなく、社会にどんなインパクトを及ぼしたかの視点で未踏事業を評価すべきだろう。
未踏には、法務や財務といった企業経営にまつわるサポートもある。起業家として名乗りを上げる人材がますます増えることを考えれば、こうしたビジネス支援も重視し、「奇才」たちが心置きなく技術開発に没頭できる環境整備も期待される。その上で、発想力や革新性がオープンイノベーションを通じて、社会に還元されることが、米国や中国のIT企業との熾烈な競争を勝ち抜き、日本の産業活性化につながるカギとなる。
(2020/3/9 05:00)