(2020/3/13 05:00)
2020年春の大手企業の労使交渉(春闘)は、労働側にとって総じて厳しい内容となった。新型コロナウイルスの感染拡大による景気の悪化懸念とともに、経営側がベースアップ(ベア)との決別を明確にしだした結果とも言える。
象徴的だったのが、トヨタ自動車がベアを7年ぶりにゼロ回答としたことだ。豊田章男社長は労使協議で「これからの競争の厳しさを考えれば、既に高い水準にある賃金を引き上げ続けるべきではない」と訴えた。一方で賞与については満額回答で応えた。一律の賃上げではなく、成果に応じた処遇へと転換させたいという思いが示された。
日立製作所は、ベアに相当する賃金改善分として前年比500円増の1500円を回答した。電機業界の横一線は崩れた。同時に職務や能力に応じて待遇を決める「ジョブ型」の導入を視野に、職務に求められる能力を記載したリストを整備していく意向を示した。
富士通はベアは1000円とする一方で、大卒初任給を労組の要求額3000円をはるかに上回る1万2500円と回答した。デジタル人材獲得競争を想定した対応だ。
ベアを消費拡大やデフレ脱却に活用する『官製春闘』は、安倍晋三首相が政権に復帰してから一貫してとり続けてきた経済政策だ。産業界はその意義を認め、協力してきた。
しかし2%の物価目標が実現しない中で、ベアに意味を見いだすことは困難になっている。企業に数値目標を課すのではなく、労働生産性の向上分を従業員に分配するという本来の役割に戻すべき時期である。
すでに春闘における個別労使の関心はベアから、同一労働同一賃金制度や、60歳以上の雇用・処遇改善、女性の活用、職務に応じたスキルの獲得や評価など合理的で柔軟な処遇の構築に向いている。個々の企業が実状に応じて話し合うべきものだ。
労働側が業界横並びの統一要求を重視し続けるなら、春闘の意味は再び失われてしまうだろう。春闘のあり方を再定義するべき時だ。
(2020/3/13 05:00)
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