(2020/3/24 05:00)
明治初期の庶民の暮らしは公衆衛生とはほど遠かったようだ。横浜駐在の外交官が日本人に「手洗い」を励行するよう、行政責任者の神奈川県権令に要請したことからもうかがえる。英国人が発行した日本最初の漫画雑誌『ザ・ジャパン・パンチ』(1877年3月号)には、いきさつを描いた風刺画が掲載されている。
権令は「手洗い」が大事と受け止めず、交渉は失敗に終わる。その半年後に横浜をはじめ各地でコレラが猛威をふるう。政府は急きょ「手洗い」や「消毒」など清潔を求める心得を国民に発している。
温水洗浄便座の発売から40年になる。トップメーカーのTOTOによると、家庭の普及率は8割を超える。日本人の暮らしに定着したのは公衆衛生の文化があったればこそだろう。
国内で新型コロナウイルスの感染拡大が欧米より抑えられているのは、医療従事者の懸命の努力とともに、手洗い・うがいなど、個人の衛生習慣が基本にあるからではないか。
国際オリンピック委員会(IOC)が東京大会の延期を検討し始めた。延期になれば企業活動の自粛とダブルパンチで日本経済には大きな痛手だが、健康や人命にはかえられない。今は嵐が過ぎ去るまで賢明に耐えよう。
(2020/3/24 05:00)