(2020/8/14 05:00)
『東京都35区区分地図帖―戦災焼失区域表示』というボロボロの小冊子が手元にある。まだ東京が23区に再編される前、1946年(昭21)の刊行。都心の大半がセピア色に塗られ、空襲の惨禍を可視化する。
冊子があったのは祖父の古い机の中。当時の必携ツールだったのだろう。玉音放送から1週間後、近所の誰よりも早く焼け跡に戻り、バラックの店を開いたのが生前の祖父の自慢だった。
第2次大戦の終戦からあすで75年。戦前生まれは後期高齢者だけになる。全国戦没者追悼式でお言葉を述べられる天皇陛下も、上皇さまと違って戦争を知らない世代だ。
産業界のリーダーでも、自らの戦争体験を語れる人は少なくなった。戦場の痛みや銃後の悲しみを後の世代に伝えるのは難しい。軍国日本が近隣諸国に与えた苦しみもまた、世代交代とともに実感を伴わなくなる。「不戦の誓い」を未来につなぐには、新たな決意を積み上げなければならない。
先の大戦で失われた命は日本人だけで三百万余。愚かな戦争は、現代社会が時折経験する大事故・大災害の幾百、幾千倍もの惨禍を招来した。われわれの日常と経済の繁栄は、平和の礎の上にある。改めてかみしめたい。
(2020/8/14 05:00)