(2020/9/22 05:00)
第5世代通信(5G)や自動運転、衛星通信、飛行ロボット(ドローン)などの最先端技術の軍事転用が進んでいる。便利な技術は、一面で有効な兵器になり得る。
こうした技術の「デュアルユース」には安全保障の視点が欠かせない。まだ日本では、この点で意識改革が遅れていることは否めない。
デュアルユース問題が浮上してきた背景には、経済の行きすぎたグローバリズムがある。人件費の安い途上国で最先端製品を集中生産し、世界各国に輸出するシステムは、経済面では理にかなう。しかし安全保障への配慮が不足していた。
その代表が中国である。先進国から積極的に資本と技術を導入し、国内総生産(GDP)で世界第2位へと発展した。
中国進出は、個々の企業のコストダウンや販路拡大には有効な手段だった。半面、進出企業は中国の不透明な産業規制に振り回されるだけでなく、政治や外交面での国際的なあつれきに巻き込まれる構図が生まれてしまった。最近の香港の民主化運動への中国政府の対応を見て、不安を感じている経営者は少なくないだろう。
近年の中国が、経済だけでなく軍事面で急速に力をつけてきた背景には先進国から学んだ技術がある。民生技術と軍事技術の境界があいまいになり、デュアルユースが活発化すれば、中国に限らず軍事面で台頭してくる国が出てくるだろう。これが世界の平和と安定の妨げになるという考え方が強まっている。
米国は「新興技術」14分野を貿易管理の対象にすることを決め、今年1月には地理空間画像分析用の人工知能(AI)技術を管理対象に加えた。さらに流出を防止する「基盤的技術」特定の作業を進めている。欧州連合も段階的に同様な措置をとっている。
貿易管理を適切に運用するには、何がデュアルユースに該当するかを明示しなければならない。残念ながら日本は、この面で欧米に劣後している。欧米と歩調を合わせ、不適切な技術流出を防ぐ体制を整備したい。
(2020/9/22 05:00)