(2021/2/8 05:00)
コロナ禍をきっかけに、中小企業が社会の中で果たす役割が再認識されつつある。政府は再編を通じた規模拡大や経営効率化を促すばかりでなく、機動力や独自性を一層発揮できる環境整備に力を入れるべきだ。
新型コロナウイルスの感染拡大で逼迫(ひっぱく)する人工呼吸器。異例の増産対応で医療現場を支えたのが埼玉県にある従業員約50人のメトラン(埼玉県川口市)。未熟児の繊細な呼吸にも対応できる独自技術を持ち、新生児医療の最前線を支えてきた同社が今回、急な増産要請に対応できた裏には、自動車部品大手、マレリ(旧カルソニックカンセイ)との連携プレーがある。
サプライチェーンの混乱で苦慮する部品の調達や組み立てを、マレリが支援。マレリの工場内に急きょ、生産ラインを構築し、要請からわずか2カ月での量産を実現した。この取り組みをお膳立てしたのは経済産業省である。
菅政権が重視する中小企業の生産性向上は確かに日本経済の大きな課題だ。しかし、規模拡大や経営効率化を促す施策が色濃くなりすぎると、社会を支える技術や事業モデルが散逸しかねない。中小企業が力を発揮する上での阻害要因を取り除き、足らない経営資源を補完する。こうした視点に基づく施策も重要で、くしくもコロナ禍でその意義が浮き彫りになった。
医療分野に限らず、ウィズコロナで顕在化するニーズ、宅配やインターネット通販の拡大にみられる需要の構造変化もある。これらに応える中小企業は少なくないはずだ。
とりわけ製造業では、中小企業が担う部品や素材が大企業の製品を支えるケースが多く、サプライチェーン維持の観点から中小企業の重要性が語られてきた。ただ、これは産業構造全体からみた中小企業の一つの側面にすぎない。
社会が求める製品やサービスを生み出す中小企業の主体的な取り組みの後押しは、巡り巡って社会にとっても意義がある。「等しく底上げ」から「個の力を引き上げる」支援へ、施策の重点も変化が求められている。
(2021/2/8 05:00)