社説/春闘きょう集中回答日 ベアから「働き方」の議論へ

(2021/3/17 05:00)

春の労使交渉(春闘)がヤマ場を迎えた。大手を中心とした先行企業の組合の要求回答ゾーンは19日まで。17日は主要企業の集中回答日だ。

今年の労使交渉は、一律のベースアップ(ベア)の有無ばかりが注目された昨年までの春闘とは様変わりした。自動車業界をはじめ、明示した形でのベア要求を見送った企業も少なくない。ホンダは集中回答日前に経営側が労働側のボーナス要求に満額回答し、妥結した。

もちろん電機業界のように、ベアの統一要求にこだわっているケースもある。ただ全体としては企業単位でスムーズに交渉が進んだと言えそうだ。その背景には、交渉をリードする製造業の企業業績が底堅かったこともあるだろう。

連合は中盤までの交渉状況を「例年以上に幅がみられる」と総括している。同一産業においても、企業間格差は拡大している。企業が個々の事情に応じて従業員への成果の配分方法を決めるのは、本来あるべき労使交渉の姿だ。

ただ、日本の賃金水準は経済協力開発機構(OECD)加盟国で、平均以下にまで低下している。国際的な人材争奪が加速する中で、人的投資を抑制すれば成長の機会を逸することに直結する。日本においても、ベアから成果に応じた配分へと賃金体系がゆるやかに移行するのは自然な流れだ。業務やスキルを規定して募集するジョブ型雇用を採用する企業もでてきた。

春闘を変えたもうひとつの要因が、新型コロナウイルス感染症だ。労働時間管理や職場環境などの働き方の見直しは、来年以降も労使交渉の重要事項になっていくに違いない。コロナと共存しつつ生産性を高め、分散した従業員の労働安全・衛生を確保する知見を積み上げていきたい。

大手と賃金格差のある中堅・中小企業の春闘は、これからが本番だ。賃上げの相場があいまいになる一方、コロナ禍で雇用情勢が不透明など労働側に不利な要素もある。経営側は従業員が働きやすい環境整備を心して、じっくり交渉してほしい。

(2021/3/17 05:00)

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