社説/コロナ禍の雇用維持 在籍型出向の活用を選択肢に

(2021/3/25 05:00)

コロナ禍に雇用を維持する新たな手法として始まった在籍型出向の活用。ネガティブな印象もある「出向」だが、送り出す側、迎える側ともに発想を転換。将来を見据えた策として役立てるべきだ。

在籍型出向は、雇用が過剰となった会社の社員を在籍のまま、人材を求める別会社に一時的に出向させる取り組み。厚生労働省は「産業雇用安定助成金」の運用を2月に始めた。出向元だけでなく、出向先にも受け入れにかかる経費の一部を助成するのが特徴だ。

これまでは、雇用調整助成金の休業手当で雇用を守る例が多かった。ただ、新型コロナ感染症の収束は見通せず、影響は長期化。休業で社員の意欲を落とすことなく、雇用を維持することが課題になっている。

企業はコロナ後の需要回復を考えれば、手塩にかけて育てた人材を簡単には手放したくない。一方、家電流通など巣ごもり需要に応えるため、一時的に即戦力を求める例もある。そんな双方の需給を結びつけるのが在籍型出向だ。出向を支援する産業雇用安定センターでは業種、業態にかかわらず、大企業から中小に出向させるなど、扱う事案が増えているという。

カギを握るのは、出向ニーズの収集とマッチング。正社員やパート労働者を扱う求人情報はあっても、出向情報を扱う公的機関はない。そこで厚労省の呼び掛けで、経済団体、労働組合などが参加して出向ニーズを吸い上げる全国協議会が発足した。6月までに各都道府県にも同様の地方組織が設置される。

春季労使交渉(春闘)で向き合う労使だが、「失業なき労働移動」の観点で双方に溝はなく、在籍型出向を実現させるための情報収集で連携し始めている。送り出す企業には、社員が転職してしまうリスクから活用を思いとどまる事例もあるという。また「出向」という言葉にはネガティブなイメージがつきまとうのも事実。労使双方にとって有効な施策とするためにどうすべきか。さまざまな垣根と既成概念を取り払い、知恵を出し合うことが肝要だ。

(2021/3/25 05:00)

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