社説/ジョブ・カードの活用 キャリア形成を考えるツールに

(2021/5/7 05:00)

先行き不透明な今だからこそ、社員の自律的な「キャリア形成」について考えたい。

労働力人口の減少、高齢労働者の増加、デジタル時代に沿った人材の必要性など、雇用を巡り多様化する社会環境やニーズに対応した職業人生の設計が問われている。

「会社都合で離職する人が多い一方、休業が長引く中、勤務先への不安から自己都合で退職を考える人も増えている」。厚生労働省にはハローワークからそんな声が寄せられている。

民間の調査では収入面の不安に加え、将来を見通せず、仕事内容を変えたいという回答が少なくない。日本生産性本部の最新の調査によると、希望する働き方を問われ「仕事内容や勤務条件を優先し、同じ勤め先にこだわらない」と答えた人が全体の58・7%に及んだ。

仕事に対する価値観が変わる中、自身の充足感や成長の実感が重視され始めている。労働者自身がキャリアプランを設計し、実現に必要なスキルを磨き、経験を重ねるキャリア形成に軸足は移りつつある。

大切なのは明確なキャリアプランをどう導くか。そのツールの一つが職務履歴、所有資格などを記録し、可視化するジョブ・カードだ。ジョブ・カードは休職者や職業訓練を受けた人が使うものというイメージが強いが、厚労省はすべての人が生涯を通じたキャリア・プランニングを行うためのツールと位置づけ、普及に取り組んでいる。

個人が持つ免許や資格、職務経験、職場での仕事ぶりの評価といった職業能力を折に触れて棚卸しをし、キャリアアップに役立てる。厚労省は2022年10月に同カードの作成を支援するサイトを立ち上げ、民間サイトとも連携する計画だ。

キャリア形成で労働者の能力や士気が向上すれば、会社にとっても組織の活性化で生産性の改善も期待できる。意思疎通を深めれば、帰属意識が高まるかもしれない。尊重すべきは、労働者が自主性をもってキャリアプランを描くこと。社員一人ひとりの成長を促す仕組みを社内に整えることが肝要だ。

(2021/5/7 05:00)

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