社説/国産ワクチン開発 安全保障の視点で支援強化を

(2021/6/18 05:00)

新型コロナウイルスのワクチンについて、一刻も早い接種と並行し、国産ワクチンの開発体制を再構築する必要がある。

高齢者対象の接種に続き、21日からは職域接種が本格化する。菅義偉首相は希望するすべての人に2回の接種を10―11月には終わらせたいとした。米ファイザー製など、現時点でいずれのワクチンも発症予防などの効果は高いとされる。だが「新型コロナとの戦い」は、これで終わりとはいかない。

感染症の専門家は新型コロナについて、「毎年異なるタイプのワクチンを開発して接種する必要がある季節性インフルエンザと同じように備えた方がいい」という。現在、国内接種に使うファイザー製などのワクチンについて、中和抗体の効果が続く期間は詳細に確認されていない。ただ、いずれかのタイミングで再接種は必要になる。

政府は2022年に新たなワクチンを海外から確保する方針だが、毎年海外頼みでいいのか。日本だけに流行する独自株の登場も十分あり得る。

政府は国産ワクチンの開発や生産体制構築を省庁横断で取り組む国家戦略をまとめた。諸外国から周回遅れであっても、公衆衛生だけでなく安全保障の観点からも中長期的な視点からワクチン供給体制を整備するという。これまでの反省を踏まえた取り組みであり、着実に進めていくべきだ。

製薬会社や新技術に挑戦する創薬ベンチャーを息長く支援することが必要だ。過去にも新型インフルエンザ流行時に国産ワクチン構想があり、一定の生産体制を整えたが、資金が途絶え役割を果たせなかった。

新薬開発に不可欠な治験についても国内だけでは十分な協力者が確保できないという課題がある。アジアで連携して共同治験を実施し、その成果を共有すれば国際貢献にもつながる。

たとえ国産ワクチンを開発しても、国民が正しい知識に基づき、接種の利益とリスクを比較考量し、受容しなければ普及にはつながらない。政府が最も力を注ぐべきは、国民へのリスクコミュニケーションである。

(2021/6/18 05:00)

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