(2021/6/28 05:00)
デジタルやグリーンなどの新分野の産業改革が求められる中で、最先端の知識、知見をもった博士号の人材がイノベーションの担い手として期待される。だが、わが国の過去10年の博士号取得者は伸び悩んでいる。
人口1万人当たりの博士号取得者数(17年)は、米国が08年比0・6ポイント増の2・7人、ドイツは同0・3ポイント増の3・4人、英国は同0・9ポイント増の3・8人。これに対し日本は18年に同0・1ポイント減の1・2人だった。
博士号取得に伴う経済的なデメリットが背景にあるようだ。学費や生活費を大学がサポートする海外に比べ、日本は環境が不十分だ。文部科学省の17年調査によると、博士号取得者の就職先は正規雇用が53%に留まる。大学や研究機関は、期限付き雇用が多く、安定した生活の保障がない。
高い専門性をもった新卒人材を好待遇で採用する大企業も増えてきたが、博士号取得者との根本的なミスマッチは解消されていない。ポテンシャル採用や専門性のある仕事を軸にしたジョブ型雇用など、企業も採用の多様化を考える必要がある。
企業はオープンイノベーションの取り組みを強化し、産学での共同研究を増やしている。この動きを博士号取得者の採用拡大につなげたい。実務的な経験を積む有給のインターンシップ(就業体験)の機会を増やし、長期化や内容の充実も必要である。政府は博士号取得者と企業とのマッチングの機会をつくるなど、産学双方の取り組みを後押しすべきだ。
研究者が起業、兼業する上での障害を取り除き、希望を実現する環境も整備したい。大学内での煩雑な手続きを見直し、学生や研究者の起業を総合的に支援する体制が求められる。
女性の博士号取得者の増加も望まれる。特に理工系分野における女子学生の割合は諸外国に比べて低い。日本の女性の中高生時点での理数系のスコアは経済協力開発機構(OECD)で2位だという。理数系の能力があるのに理工系の進学先を選ばない課題を見据え、魅力を高める取り組みも重要だろう。
(2021/6/28 05:00)