産業春秋／藤井二冠の初防衛

圧巻のストレート防衛だ。将棋の藤井聡太二冠（王位・棋聖）が自身のタイトル初防衛戦となった棋聖戦五番勝負で挑戦者の渡辺明名人（棋王、王将との三冠）を３勝０敗で退けた。タイトル獲得数２９期で歴代４位の渡辺名人にとっては、タイトル戦で初のストレート負け。

第一人者に付け入る隙を与えず完勝した藤井二冠だが今夏は試練の夏でもある。防衛戦の王位戦七番勝負、挑戦者となる叡王戦五番勝負はいずれも豊島将之竜王との勝負だ。

対戦成績は通算１勝７敗で大きく負け越す。史上最年少九段を果たした藤井二冠にとっても天敵と言える豊島竜王との最大“十二番勝負”は二冠のプライドをかけた戦いになる。

全国各地を転戦するタイトル戦は地方のにぎわい創出に貢献する。コロナ禍で前夜祭などのイベントは中止や縮小だが、棋聖戦第３局では地元の将棋教室に通う子どもたちが昼食休憩明けに実際の対局を見学した。

目を輝かせた見学者の中に“未来の名人”がいたかもしれない。初防衛を決めた藤井二冠は「初心」と色紙に記した。１９日で１９歳を迎えるがすでに将棋界を背負う存在。子どもたちに夢を与える立場としての自覚も、色紙への決意に示されている。