(2021/7/16 05:00)
賃金格差の是正への菅義偉政権の強い意志が示された結果といえる。中小・小規模事業者が雇用を維持しながら成長戦略を描けるよう、政府は支援を手厚くすべきだ。
中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)小委員会は、2021年度の最低賃金引き上げの目安を、全国平均で過去最高の28円引き上げとした。上げ率は3・1%で、最低賃金の全国平均は時給930円となる。
「骨太の方針」にも「最低賃金については、全国平均1000円を目指す」と明記しており、首相の引き上げへの強い意欲が背景にある。ならば企業が賃上げしやすい環境を整備するのが政府の役割だ。
最低賃金で雇用をせざるを得ない企業の中には、コロナ禍で最も過酷な状況にある飲食店や旅館業が多い。自らの努力だけで収益改善が困難な企業に賃上げを求めるのは酷だ。経営者を追い込み、廃業や従業員の解雇につながる恐れもある。
厚労省には、最低賃金を引き上げた中小企業・小規模事業者に対する助成金交付などの制度がある。制度を周知し、活用を促してもらいたい。同時に従業員のスキル向上をはかる職業訓練や、経済産業省の事業再構築補助金、過剰債務の改善策など、省庁横断でパッケージを示し、生産性を高める最大限の施策を講じる必要がある。
今後、地方最低賃金審議会で地域別の最低賃金の審議が始まる。目安が踏襲されるのが原則だが、地域経済や雇用の実情を踏まえ、柔軟な対応も検討すべきだろう。
将来への成長戦略を描き、事業の生産性を高めて従業員に賃金というかたちで還元するのは経営者の責務だ。日本が先進国のなかで、生産性や賃金上昇率が低位にあることは事実である。とはいえ企業努力だけでは経済環境の制約を克服できないこともある。
最低賃金に対する国民の期待はよく分かる。しかし、その責任を経営者だけに押しつけてはならない。政府が支援を怠れば、少なくない数の中小企業が失速してしまうだろう。
(2021/7/16 05:00)
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