(2021/7/22 05:00)
「“脅威”とは能力と意図の両方がある場合の評価だ」―。防衛省首脳の冷静な口ぶりに、日本の安全保障が直面する困難を感じた。
先ごろ閣議報告した2021年版防衛白書は、米国と中国の対立分析に力を注いだ。米バイデン政権が「インド太平洋における軍事プレゼンスを最重視する」と表明し、中国と長期に対抗する姿勢を鮮明にしたと評価。新たに「米中関係」の節を設け、台湾に対する「中国の野心」にも言及した。
中国に対する分析は「透明性を欠いたまま高い水準で国防費を増加」「軍事利用が可能な先端技術の開発・獲得にも積極的」と警戒。また尖閣諸島の周辺海域での活動に対して、初めて「国際法違反」の表現で非難した。
しかし中国の総体的評価は昨年と同じ「強い懸念」。北朝鮮の「重大かつ差し迫った脅威」とは落差がある。なぜかと問われた答えが冒頭の発言。笑顔を絶やさぬ今の中国に、武力侵攻の意図があると見ることはできないというわけ。
産業界は政治的対立にかかわらず、経済交流の維持・拡大を望んでいる。しかし、白書の行間ににじむ防衛当局のホンネを前にすると、ずっと“政冷経熱”を続けることの難しさを感じざるを得ない。
(2021/7/22 05:00)