(2023/1/10 05:00)
岸田文雄首相は4日の年頭会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。歯止めがかからない少子化がさらに進行すれば社会保障制度の持続可能性が危うくなり、国力の大幅な弱体化は避けられない。岸田首相は「挑戦」で済ませず、財源の確保を含め、有効な対策を確実に講じる実行力が強く求められる。待ったなしの課題だ。
2022年の出生数は初めて80万人を割り込み、80万人割れは政府機関の想定より8年も早まる見通しだ。政府は12年に「社会保障と税の一体改革」をまとめ、これまで消費税を財源に少子化対策を講じてきた。保育の受け皿整備や幼児教育・保育の無償化などに取り組み、17年度に約2・6万人だった待機児童が22年度に約3000人まで減少するなどの成果を上げた。
だが若者の多様な人生観や経済的負担、さらにコロナ禍も加わって少子化は一向に歯止めがかからない。政府がこれまで講じた対策がなぜ機能しなかったのか、新たな支援策を策定する上で、若者の実態を十分に把握する作業を怠ってはならない。
岸田首相は経済財政運営の基本方針「骨太の方針」をまとめる6月までに、子ども予算倍増に向けた大枠を提示するよう関係閣僚に指示した。児童手当を中心とする経済的支援、幼児教育・保育サービスの強化、育児休業制度の改善などが柱になる。支援が手薄だった非正規労働者や自営業者などにも目配りするため、兆円単位の安定財源の確保が必要とされる。
だが岸田政権は22年に防衛力増強とその財源確保の議論を最優先し、少子化対策は財源に踏み込んでいない。自民党内には将来的に消費増税を財源とする案もあるが、ハードルは高い。
少子化対策の中身も、出産をためらう既婚者や未婚者にインセンティブとなる対策を探るのは容易ではない。経済支援に加えて職場の理解と協力、さらにキャリア志向の女性の働き方なども勘案する必要がある。保育士の負担も軽減したい。課題山積の中、「異次元」と形容できる処方箋を打ち出せるのか、岸田政権の真価が問われる。
(2023/1/10 05:00)