(2023/4/10 05:00)
9日に日銀総裁に就任した植田和男氏(経済学者、元日銀審議委員)は当面は異次元金融緩和を維持する意向を示している。だが中期的には金融緩和の縮小、さらに金融引き締めへの転換と、金融政策の正常化を探ることが想定される。金融正常化を実現することで、異次元金融緩和によって緩んだ財政規律を是正し、主要国で最悪とされる財政の健全化につなげたい。
日銀がまとめた2022年10―12月期の資金循環統計によると、日銀は22年12月末時点で国債発行残高の52・02%を保有する。国債の過半を保有する異常事態にあり、この比率は過去最高だ。金利の上昇を抑えるための国債購入を積極化していた。黒田東彦氏が総裁に就任した直後の13年3月末は11・6%に過ぎなかった。日銀の異次元金融緩和による国債購入がいかにすさまじかったかが分かる。
異次元金融緩和はデフレ脱却や景気下支えの目的がある一方、財政ファイナンスの側面も指摘される。23年度一般会計予算で過去最大の歳出総額114兆円を計上できたのは35兆円もの新規国債を発行するからだ。日銀という安全な引き受け手があることも歳出圧力を強める一因になっている。政府による野放図な財政運営を戒める上でも、金融政策の正常化を早期に実現する必要がある。日銀の国債購入額が減れば、政府に財政健全化を促す契機となろう。
政府は、高成長が継続すれば国・地方の基礎的財政収支(PB、プライマリーバランス)は26年度に黒字化すると見通す。実質2%程度、名目3%程度の高成長が継続する「成長実現ケース」の場合だが、岸田文雄首相自身も「実現は容易ではない」と認める。現実的なのは足元の潜在成長率0%台半ばで推移する「ベースラインケース」だが、試算した最終年度の32年度までPB赤字が継続する。
岸田政権は厳しい財政事情と正面から向き合い、ベースラインケースを前提に中長期の視点で財政健全化への道筋を示してもらいたい。日銀は金融正常化で健全化を後押しし、将来世代の負担を軽減していきたい。
(2023/4/10 05:00)