(2024/12/13 12:30)
わずかな構造の違いが全く新しい機能を生み出す―。近畿大学の森本康一教授らが開発した細胞低接着性コラーゲン(LASCol)は、一般的なコラーゲンを特別な酵素で処理するだけで調整できる。だが、LASColで培養した細胞は細胞凝集体(スフェロイド)を効率的に形成し、細胞の分化誘導を加速するなど従来のコラーゲンの常識を覆す機能を示し、椎間板ヘルニアや脊髄損傷、骨再生などへ応用が期待される。
体内に多く存在し、医療から食品、化粧品まで広く利用されているコラーゲン。通常、酵素のペプシンで処理して末端部を切断し可溶性を高めるが、キウイフルーツ由来の酵素でさらに数個から数十個内側のアミノ酸を切断したLASColは、全く異なる性質を見せた。驚いた森本教授はその機能を調べ、医療材料として多様な可能性を見いだした。
その一つが椎間板ヘルニア治療への応用だ。LASColで培養した椎間板の髄核細胞は勝手にスフェロイドを形成する。さらに、髄核細胞に特有の分化マーカーが維持され、従来の機能を示すことが分かった。ペプシン処理コラーゲンでは、細胞は増殖しても元の機能を持たないものに変化してしまう。
神経再生の足場材料にもなり、有効な治療法が確立できていない脊髄損傷治療に向けた期待も大きい。脊髄損傷モデルラットの損傷部位にLASColを埋入すると、神経細胞が損傷内部に入っていく様子が観察され、ラットは動き回れるようになった。
なぜ、こうした組織修復力を示すのか。森本教授は「免疫細胞のマクロファージが重要な役割を果たすのでは」と仮説を立てる。損傷が起こると血液などがしみ出し、マクロファージが掃除し修復する。この時、ペプシン処理コラーゲンでは外側に細胞が集まるものの線維が密で中に入れないが、「LASColは細胞が物理的に入りやすい環境を作る」(同)。線維化速度が遅く、疎な線維を形成するため細胞が浸潤しやすく、さらに修復に働く細胞群を呼び集めて元の組織を形成する可能性がある。
また、LASColでのマウスの線維芽細胞培養における遺伝子発現を調べると、ペプシン処理コラーゲンに比べ成長因子の合成量が激増し、多く分泌することが分かった。
さらに、間葉系幹細胞の分化速度が向上し、分化誘導能を持つことも実証されたのだ。
森本教授は、「培養足場への接着が強いと細胞は伸びきって張った状態になるが、LASColでは緩い足場となり細胞は自由に動ける体内の状態に近い。その結果、細胞膜が柔軟になり、細胞の外界シグナルの取り込み量が増えるためではないか」と考える。
凍結乾燥によりコラーゲンのみで自由に固形物を形成でき、骨修復にも役立つ。安全性が高く、製造も容易、体温でゲル化するためそのまま注射できるなど利点は多い。「現在は整形外科領域での応用が中心だが、他領域への拡大も期待される。臨床応用に向け、機能を生み出すメカニズム解明が重要だ」と森本教授は研究を急ぐ。
(2024/12/13 12:30)
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