[ 政治・経済 ]

パリ同時テロ/日本企業に衝撃−現地事業は継続、冷静な対応

(2015/11/17 05:00)

パリで発生した同時多発テロは、日本企業にも衝撃を与えた。各社は現地に駐在する社員の安否を確認するとともに、日本から現地への渡航を当面中止するなど、対応に追われている。ただ、現地での事業は継続しており、混乱のなかにも冷静に対処する姿勢がみられる。

現地での事業活動は「安全に最大限留意しつつ継続する」(三菱東京UFJ銀行)、自粛していた店舗営業を「16日からは再開予定」(良品計画)など、大半の企業は事業継続に動いている。一方で、企業の多くが現地への渡航自粛を指示しており、パリだけでなく不要不急の海外渡航そのものを自粛する動きもあり、企業活動に影響がでている。

【日本企業、影響を注視】

仏パリで発生した同時多発テロ事件を受けて、日本企業は休み明けの16日、従業員に対して渡航自粛や注意喚起などの対策を取り始めた。従業員がテロに巻き込まれるなど直接の被害はなかったものの、仏全土に発令された非常事態宣言が緩和・解除されるまでは、少なからず影響があると見られる。日本企業は事業継続計画(BCP)に沿った対応をとりながらも、ビジネスに与える影響を注視している。

■長期化に懸念

非常事態宣言が長期化すると、現地の飲食店など業務向けで酒類の売り上げが落ちる事態も考えられる。キリンビールは「フランスで一番搾りビールの売り上げが伸びている矢先だけに、先行きが心配だ」と懸念を示す。

一方、今週19日に解禁となるボジョレヌーヴォワインについて、サントリーホールディングスは「11月13日までに輸入が終わっており、日本で飲めないということはない」と話す。メルシャンやアサヒビール、サッポロビールなど他のワインメーカーも同様。メルシャンは「船便の分も日本に向け出港済みだから問題はない」と解説する。

ファーストリテイリングは現在、パリで6店を展開しているが、事件現場に近い店舗などで営業を自粛するなどの措置をとった。「無印良品」を展開する良品計画はパリに約10店を展開するが、これまでの自粛体制から「16日からは再開予定」という。

■渡航を自粛

テロ事件を受けて、フランスに拠点があったり、関わりのある企業などは渡航自粛などの措置をとっている。

日産自動車はパリへの新規渡航を禁止した。現地への出張者は16日時点で16人で、ホテルに待機するよう指示している。東レは16日朝に不要不急な出張は当面控えるよう、通知を出した。現地では15日からの3日間、国を挙げて喪に服すことを決めており、この期間までは渡航を自粛する。

リコーは16日、当面のフランスへの渡航を禁止するとの指示を発令した。同社では以前からテロなど事件や事故が起こった際に、業務ごとにどんなルートで報告、検討などを進めるか標準ルールを定めている。今回もこのルールに基づき、早急な対応につながった。

日揮はパリ市内への出張や移動の際の経由を当面規制する決定。日立造船も16日、パリへの出張の全面禁止を社内で通知した。ヤマハ発動機は16日、仏出張を原則禁止するとの指示を出した。OKKはドイツの現地法人社員や日本からも含め、仏経由の出張をドイツやオランダ経由に変更するとしている。

■注意を喚起

ビジネスが全世界にまたがる製薬会社も対応に追われている。

武田薬品工業は20日までに仏出張の予定を組んでいる社員に対しては延期するよう指示したほか、大塚製薬は欧州への出張については安全に十分留意した上で、パリ経由の路線は極力避ける方針を決めた。

アステラス製薬は不急の出張についてはスケジュールの変更も含めて慎重な検討を行うべきだと社員向けウェブサイトで通達。サノフィ(東京都新宿区)はグローバル本社の所在地である仏出張は禁止していないが、可能であれば延期を検討するよう要請するとともに滞在中の注意事項を細かく指示している。

■「サミット・五輪、全力でテロ対策」−菅義偉官房長官

菅義偉官房長官は16日午前の記者会見で、パリで発生した同時テロを受け、「来年の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を皮切りに2019年ラグビーワールドカップ、20年東京五輪が続く。今回のテロ事件をきっかけに、開催国として警備に万全を期すため、テロ対策に全力で取り組みたい」と述べ、国内テロ対策を強化する意向を強調した。

菅長官は、具体的な対策として、情報収集・分析の強化や水際対策、重要施設の警戒警備のほか、テロ対処訓練や装備資機材の整備などを列挙した。

■航空2社、パリ線を通常運航

全日本空輸(ANA)、日本航空(JAL)の航空大手2社はパリ線を通常通り運航している。今後も空港閉鎖などがなければ運航を継続する計画。

JALは到着地を周辺空港に変更する可能性があることを、あらかじめ告知している。14日は羽田線で約20人、成田線で約30人のキャンセルがあった。ANAは羽田線のみの運航で14日に約50人のキャンセルがあった。

JTBはテロ発生時に、約300人のツアー客がパリに滞在していたが、全員の無事を確認した。14―16日に出発予定のツアーは催行中止を決定。17日以降の催行は16日の状況をみて判断するとしている。

■日本人ツアー客、全員の無事確認−観光庁

観光庁は16日、フランスで発生した同時テロ事件当時、パリに滞在していた日本人ツアー客約1800人全員の無事を15日までに確認したことを明らかにした。同庁は16日午後、旅行業界に対し、フランスへ渡航する旅行者に注意を呼び掛けるよう求める文書を出した。無事を確認したのはJTBなど大手旅行社13社のツアー客。

■ジェトロ、医薬品関連の交流取りやめ

日本貿易振興機構(ジェトロ)は16日から約1週間、仏パリの医薬品関連企業と予定していたビジネス交流を取りやめた。

外国との地域間交流事業の一環として富山県の医薬品関連企業をパリに派遣する予定だった。情勢を見極めながら再度、派遣を検討する。

一方、ジェトロのパリ事務所は16日以降も通常通り営業する。空港や地下鉄などの公共交通機関は動いており、「来訪者があれば対応する」(ジェトロ安全対策班の齋藤雅信主幹)としている。

(2015/11/17 05:00)

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