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[ 科学技術・大学 ]
(2016/8/11 05:00)
京都大学の山中伸弥教授らの研究グループがマウス由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製成功を公表してから、2016年8月で10年の節目を迎えた。現在は目の難病や脊髄損傷、心筋梗塞など、さまざまなヒトの疾患を対象に、iPS細胞を使った再生医療の研究が進む。移植用のiPS細胞を備蓄する事業も規模を拡大。発表から10年が経過し、研究は新たな段階を迎えている。(斉藤陽一)
22年までに日本人の8割強に適合するiPS細胞の備蓄を―。山中教授が所長を務める京大iPS細胞研究所(CiRA)では、移植用iPS細胞を備蓄する事業「再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト」が進む。
他人に移植しても拒絶反応の起きにくい特殊な細胞の「型」を持つ人から血液の提供を受け、備蓄用iPS細胞を作る。今月末までには、2カ所目の採血拠点を東京駅に新設する。これまで採血拠点は京都にしかなかったが、新拠点設置で東日本在住の血液提供者の探索を強化する。
iPS細胞を使った再生医療の中でも特に研究が進む分野は、目の難病「加齢黄斑変性」への適用だ。14年に理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらの研究チームは、同病の患者に本人由来のiPS細胞から作った網膜色素上皮シートを移植する手術をした。現在は他人由来のiPS細胞を使う「他家移植」の臨床研究の準備を進める。
患者自身のiPS細胞を使う「自家移植」は拒絶反応を回避できる半面、多くの時間とコストを要する。一方、備蓄したiPS細胞を使う他家移植が実現すれば、費用と期間を大幅に削減できる。iPS細胞作製成功から10年を経て、研究者は他家移植という大きな課題に挑んでいる。
【iPS細胞の道のり】
マウス由来のiPS細胞作製の論文は、06年8月25日付の米科学誌セルに掲載。その約2週間前の10日(米国東部時間)に、同誌の電子版で研究成果が公開。07年にはヒトの皮膚細胞からのiPS細胞作製に成功。12年に山中教授はノーベル生理学医学賞を受賞した。
(2016/8/11 05:00)