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[ エレクトロニクス ]
(2016/10/10 05:00)
熊本地震で被災したソニーの熊本工場が完全復旧した。被災直後には「熊本からの撤退も頭によぎった」(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの上田康弘社長)ほどの被害を受けたが、9月末に出荷ベースで震災前の水準に回復。今下期中にはフル生産をはじめ、生産量を現状の月産7万枚から同7万3000枚へ引き上げる見込みだ。事業継続計画(BCP)も見直し、さらに短期で復旧できる強靱(きょうじん)な体制で生産強化に挑む。
熊本工場はデジタルカメラや監視カメラ向け画像センサーを製造。4月16日の本震で同社の熊本テクノロジーセンター(TEC)は壁の崩落や天井の搬送装置が落下、ウエハー表面の処理に使う拡散炉の破損など、大きな被害を受けた。「建屋がこれほど被災するとは想定せず、どうしていいか思わず立ちすくんだ」(上田社長)。
窮地を救ったのは、同業他社であるルネサスエレクトロニクスだ。震災から3日後、近隣にあるルネサスの川尻工場(熊本市南区)を訪問。東日本大震災で被災した同社那珂工場(茨城県ひたちなか市)の復旧ノウハウを聞くためだった。
川尻工場と那珂工場の合同会議で、ルネサスの担当者は那珂工場の被災時を振り返りつつ、震災後に想定される状況や復旧に必要なものなどをアドバイス。その帰り道、上田社長は「これなら復旧できる」と確信した。
4月21日には決起集会を開き、8月末の生産再開を目標に設備の復旧作業を開始。上田社長の「九州人の意地をみせよう」との呼びかけの下、従業員総出で柱の補強や砕け散ったウエハーの片付けなどに奔走。協力会社の助けもあり、想定より1カ月早い7月末に生産再開にこぎ着けた。「クリーンルームの清浄化装置に被害がなかった点も、不幸中の幸いだった」(鈴木裕巳熊本TEC長)。想定より早い復旧で「顧客からの再評価の声も多く聞こえている」と、上田社長は誇らしげだ。
現在、熊本工場では震災時の避難対応や在庫・調達の不備などの課題を振り返り、BCPを見直している。今回3カ月かかった復旧期間を2カ月に短縮することを目指し、熊本地震レベルの震災が起きても出荷を滞らせない体制の早期構築を狙う。12月末までに新たなBCPを策定する計画だ。鈴木TEC長は「他の生産拠点にも展開したい」と意気込む。また、今回の知見を他社とも共有する考えで「我々がしてもらったように、半導体業界に限らず製造業全体に広く生かしたい」(上田社長)としている。
(2016/10/10 05:00)