[ オピニオン ]
(2018/10/15 05:00)
転換点にある日本の宇宙産業を、またひとつ飛躍させる可能性を秘めた取り組みが始動する。政府が保有する衛星データの民間開放だ。宇宙由来のデータの利用拡大を通じて、革新的なビジネスや社会の効率化が実現することを期待する。
政府衛星データの一部は主に研究用途として開放されているが、民間の商用利用には、高いハードルが立ちはだかっていた。容量が大きく、解析に専門的な知識も必要。ビジネスに活用するには負担が大きかった。そこで経済産業省などは、すでに扱いやすい形に加工されたデータを企業や個人が原則無料で入手できる仕組みの構築を進めてきた。パイロット版提供が2018年度中に始まる見通しだ。
利用環境の整備を議論してきた有識者会議の座長を務めたのは、世界初のインターネット接続サービス「iモード」の生みの親である夏野剛氏。「最初の利用は日本企業であってほしい」と日本発のイノベーションに期待を寄せる。
宇宙産業のすそ野拡大は世界的な潮流だ。米国では、衛星画像から石油備蓄量を予測し、原油先物取引に有益な情報として提供する事業をスタンフォード大学発ベンチャー企業が手がけるなど、新ビジネスが相次ぎ誕生している。衛星データを人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)といった技術と組み合わせることでもたらされる「新たな価値」への関心は、日本でも高まっている。インフラの遠隔管理や農作物の収穫予測、物流効率化といったさまざまな分野で活用を模索する動きが広がる。労働力不足への解決策としての期待も大きい。
こうした新ビジネスを支えるのは、小型衛星を低軌道上に多数打ち上げ一体的に運用する手法や大量の衛星を宇宙に運ぶ低価格の小型ロケット開発。これらの分野は日本でも大手企業だけでなく、ベンチャー企業が存在感を増している。
日本の宇宙機器産業の規模は年間約3500億円で官需が9割を占める。データに着目した新たなビジネスは、官頼みの構造転換の弾みとしたい。
(2018/10/15 05:00)