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(2017/8/29 05:00)
富士通がパソコンに続き、携帯電話事業も売却する方向で調整を進めている。ハードウエア事業を連結から外し、ソフト・サービス事業に経営資源を集中する。田中達也社長が「ビジネスの質と形を変える」を旗印に指揮する富士通の全社改革の新しい段階だ。その背景にはコモディティー(日用品)化したパソコン、携帯電話市場における“地殻変動”がある。(編集委員・斉藤実、梶原洵子、清水耕一郎)
連結営業利益率を10%以上へ―。田中社長はこれを在任中の目標に掲げている。連結営業利益率は2016年度実績が2・9%。17年度は4・5%の見込み。事業構造改革をさらに推し進めることで、18年度には「営業利益率6%ゾーン」の達成を公約している。
同社はパソコンで国内シェア2位、携帯電話で国内シェア5位だが、世界市場での存在感はない。パソコン・携帯電話事業の売上高は12年3月期の8895億円から、17年3月期は6116億円まで縮小した。
現時点で黒字だが収益面ではぎりぎりで、経営の重荷となっている。パソコン、携帯電話ともに一般消費者向けの看板製品であり、同社では事業の切り離しにあたって富士通ブランドを維持できる協業の枠組みを模索している。
だが、交渉時間は無限ではない。中国レノボと統合交渉を進めるパソコン事業についてはすでに待ったなしの状況にあり、塚野英博富士通副社長は「国内だけなら(単独でも)延命できるが、時間は有限だ。(最終合意は)そう遠くはない」と覚悟をにじませる。
ハードウエアを切り離す富士通が注力するソフト・サービス事業も例外ではない。米IBMは05年にパソコン事業をレノボに売却、14年にはパソコンサーバー事業までも売却した。その決断を下したIBMシステムズ担当のトム・ロザミリヤ上席副社長は「コモディティー化した事業は、その分野で最大手になれなければもうからず、意味がない。当社は成長に向けてソフト・サービス事業を意図して選び、投資を集中した」という。
富士通にとってパソコンや携帯電話の切り離しは大きな決断だが、改革の一里塚でしかない。将来はパソコンサーバーの切り出しもあり得る。主戦場の国内市場が頭打ちの中で、成長の軸とするソフト・サービス事業のグローバル展開を成功させなければ展望は開けない。
ドコモ、売却先の戦略注視 事業縮小の可能性も
一方、富士通の携帯事業切り離しをキャリアはどう見るか。富士通のスマホ「arrows(アローズ)」を扱っているのがNTTドコモ。利用料金から毎月1500円を割り引くサービス「ドコモウィズ」の対象端末で、シニア層向けの「らくらくホン」など一定の存在感を持つ。
しかし、スマホ販売市場は上位機種のiPhoneを中心に形成され、最近ではMVNO(仮想移動体サービス事業者)向けの中国製など格安スマホが台頭している。中位機種の富士通の立ち位置は「微妙」(ドコモ)ともいえる。
またドコモのiOSとアンドロイド端末の販売比率が50対50とみても、その半分をかつてツートップ戦略で看板機種に担いだソニーや韓国サムスン電子とパイを奪い合う状況。こうした環境下で富士通イコールスマホというブランドを作れず、“リンゴ”を打ち抜くことはできなかった。
ドコモにとって富士通の携帯電話事業切り離しの影響は当面ないとみられるが「売却先の事業戦略がどうなるかを注視している」(ドコモ)。来年夏モデルまで端末の調達にめどをつけていてもその先は白紙。売却先によっては携帯電話事業を縮小したり、低価格モデルに力を入れたりする可能性もある。
販売台数、アップルに肉薄するファーウェイ 技術より「コスト競争力」
パソコンと携帯電話・スマートフォンは、メーカー間の技術の差が薄れ、規模の競争が加速している。スマホにおいても、市場の先駆者である米アップルが、後発の中国ファーウェイに出荷台数で僅差に迫られ、3位になりかねない事態となっている。
17年4―6月期の両社の世界シェアの差は0・7ポイント、出荷台数の差は約260万台。業界では従来、同時期の新製品投入が避けられてきたが、ファーウェイが新型iPhoneにぶつけて新製品を投入するという海外報道もあり、業界の構造は激変しつつある。
一方、日本市場には世界と違う独特のトレンドがある。スマホの世界シェアではアンドロイドOS端末がiPhoneを大きく引き離しているが、日本市場ではiPhoneが圧倒的な人気を誇り、2―5位は日本勢が独占。パソコンは米HPや中国レノボ、米デルなどの世界大手が高いシェアを持つが、それでも日本勢が一定のシェアを維持している。日本市場は大きな成長は見込めないが、安定した規模があるため、海外勢はシェア獲得を虎視眈々(たんたん)と狙っている。
中国レノボがNEC、富士通と相次いで日本メーカーのパソコン部門をグループ化しているのもその現れだ。メーカー間の技術の差が狭まり、コスト競争力がモノを言う中、規模を拡大すれば、調達コストを下げられる。
スマホでもシェア獲得のため、同様のことが起きても不思議ではない。富士通の携帯電話事業の売却先について、「国内ブランドであるアローズを残しつつ、中国や韓国勢が日本市場開拓の武器にする可能性もある」(MM総研の横田英明常務)との見方もある。
こうした中、世界大手の傘下に入らず、生き残り策を講じる日本メーカーもある。例えば、マウスコンピューター(東京都中央区)の低価格パソコンを支えるのは、小回りを生かした徹底した在庫管理などだ。VAIO(長野県安曇野市)は製品管理で利益率を高めつつ、再度海外事業の拡大へかじを切り始めた。また、コンピューター技術などを生かした関連機器の強化も活発だ。ソニーは、耳に装着してハンズフリー通話ができる「エクスペリア イヤー」を発売。マウスコンピューターは、家庭用IoT(モノのインターネット)機器を販売する。
もう一つ、パソコンとスマホの垣根が低くなっていることも、今後の競争に影響しそうだ。特に政府の推進する働き方改革では、モバイル性の高いパソコンが求められる。スマホ大手のファーウェイはこれを商機ととらえ、16年にパソコン市場へ参入した。スマホと共通の技術や部品を利用できる上、開発投資を拡大できる。
市場構造が変わる中、再編の波に乗るか、日本メーカー各社の戦略が注目される。
(2017/8/29 05:00)