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【電子版】マーケティングの出番ですか?(6)ちょっと変だよ、対象者選び-いま、調査の現場で起こっていること

(2017/11/11 05:00)

私の会社では「顧客の生の声」を聞く調査に特化した“貸し会議室=グループインタビュールーム”を運営しており、そこでは年間1,700回を超えるインタビュー調査が実施されています。当社では当調査の実施に際して、インタビューに参加してもらう「対象者」を見つける作業(=対象者リクルートといいます)もサービス提供しており、今回は最近の対象者リクルートの事例を通じて、本来のあり方をご紹介させて頂きます。

「顧客の声を聞く」という永遠のテーマ

消費者向け市場(B2C)では、消費者が自社商品を認知し、関心を寄せ、購入してもらうことが重要で、さらにリピート購入には、消費者満足を得なくてはいけません。「自社の製品は競合よりも技術や機能・性能が優れ、コスト的にもアドバンテージがある」という作り手が考える製品の優位性が、消費者にどこまで評価されているかわかりません。そのため、以前からB2C市場の調査では、「顧客の声を聞く」ことが重視されています。

マーケティング調査手法には、主にアンケート形式で回答結果を集計する定量調査と、消費者から生の言葉を収集するグループインタビューに代表される定性調査の2タイプがあります。

「顧客の声」は複数の選択肢から回答してもらうアンケート形式の定量調査でも、ある程度の結果を得ることは可能ですが、あくまで傾向分析の域を出ず、顧客の製品に対する満足度、顕在/潜在ニーズ、価値観等、複合的な要素を分析するにはインタビュー形式の定性調査がより適しています。そして、このインタビュー調査では、「誰」に話を聞くか、つまり対象者選定の良し悪しがその成否を左右します。

そのため、最近では、製品の購入想定対象者(=ペルソナ)の人物像を具体化し、それに合致する条件の対象者をリクルートして欲しいという要望が急増しています。このこと事態は喜ばしいことなのですが、一方で、ちょっと首を傾げるような「人物像」がかなり見受けられます。

自社製品を購入する理想的な人物像?

某冷菓メーカーより、新発売する高級アイスクリーム(250円位)並みに美味しい150円位の“アイスミルク”の商品評価に当たり、調査対象者に「都内の企業に働く20代独身女性で、23区内のワンルームマンションに住み、年収500万円以上。ファッションや美容に興味を持ち、月に5万円以上支出。食にもこだわりがあり、週に1回は女子会や恋人と5000円以上の食事をし、スイーツのトレンドにも敏感で、新しいスイーツが出ると必ず試す」という人物像の条件提示がありました。

素敵な若い女性を商品購入の理想的なターゲットとしているのは分かりますが、この条件を満たす女性が果たして市場に何%いるのでしょうか。はたまた、その数は新商品が期待する市場規模に見合うのでしょうか?人物像の具体化は重要ですが、存在数が見通せない条件は調査を危ういものにします。ちなみに、この条件を満たす対象者は見つからず、抜本的に条件を見直すことになりました。

品質やブランドに拘泥する人物像?

次のケースは、某トイレタリーメーカーより「40~50代の男性で歯槽膿漏に悩みを持っており、現在歯磨きBを使っている。歯磨きBを使う前は違うブランドの歯磨きAを使っていたが、ここ半年前に効果に不満があり歯磨きBにスイッチした人」かつ「液体歯磨きCを並行して朝のみ使用している」という条件です。人物像はとても具体的ですが、実際にこの条件を満たす対象者は1%以下でした。

自社で行った自主調査では、「メーカーやブランドを覚えていて、詳細を人にも伝えられる(話せる)人」は、一般消費財でわずか10%でした。つまり歯磨きなどの調査において、品質評価によるブランドスイッチを対象者条件とすることは現実的でないことがわかります。

最近の“ちょっとへんな対象者選び”を反面教師として、最後に「顧客の生の声を聞く」対象者選びのステップを列挙してみました。

1.市場の全体観(競合動向、市場規模、技術革新等)の把握

2.存在が確実に見込まれる現実的な人物像の想定

3.自社・競合他社製品を利用する各消費者の特徴の把握

4.消費者目線による製品ニーズ(機能、品質、ブランド、価格、価値等)の仮説設定

「何を」「誰に」聞くかは、グループインタビュー調査の基本です。最近の失敗例を見るにつけ、基本に立ち返る必要性を痛感しています。

(毎週土曜日掲載)

(『新製品情報』2014年9月号掲載)

【著者紹介】

株式会社ウェルコインターナショナル取締役 喜多左知子

(マーケティングリサーチコンサルタント)

主要事業:定性リサーチ及びマーケティングコンサルティングサービス

略歴:自動車メーカーに入社、販売業務に従事。その後、マーケティング会社に転職し、多くのクライアントのマーケティング企画、調査案件に携わる。2002年に(株)ウェルコインターナショナルの設立に参画、現在に至る。

(2017/11/11 05:00)

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