[ オピニオン ]
(2018/1/19 18:00)
米国を代表する製造業でありながら、株価下落や会社分割で揺れる米ゼネラル・エレクトリック(GE)。それでもデジタルモノづくりの取り組みでは日本企業の先を行く。代表的なのが3次元(3D)CADのデータをもとに立体物を直接出力できる金属積層造形(3Dプリンティング)だ。
グループ内での部品製造に金属積層造形を積極活用するほか、スウェーデンのアーカム、ドイツのコンセプトレーザーという有力装置メーカー2社を合計14億ドルで買収。さらには直径1メートルを超える大型金属部品を作れる試作機も開発した。
2016年に設立した金属積層造形事業部門GEアディティブがその中心的な役割を果たしていて、昨年11月には生産能力の4倍増を見込み、ドイツ・リヒテンフェルズにあるコンセプトレーザーの新工場を着工。12月初めには1500万ドルを投じ、潜在顧客が積層造形のための3D設計を学んだり造形装置で試作したりできる「カスタマー・エクスペリエンス・センター」を米国以外では初めて、ドイツ・ミュンヘンに設置するなど立て続けに手を打っている。
買収先と大型機を共同開発
まず、買収後の大きな成果ともいえるのが、GEの保有する技術と買収したコンセプトレーザーの技術を組み合わせた大型積層造形装置。「プロジェクト・アトラス」(A.T.L.A.S=Additive Technology Large Area System)と名付けた事業開発プログラムのもと開発したもので、17年11月にドイツで開催された世界最大規模の積層造形専門展「フォームネクスト」で公開した。
この装置は直接金属レーザー溶解(DMLM)という手法により、幅・奥行きがともに1.1メートル、高さ0.3メートルまでの大型部品を造形できる。出力1キロワットのレーザー発振器を持ち、製造スピードは毎分20立方センチメートル以上。9カ月で開発にこぎつけたという。
1月10日付でGEアディティブのCEO兼バイスプレジデント(VP)にジェイソン・オリバー氏が任命されたが、それまでVP・ゼネラルマネジャーとして同部門の責任者を務めていたモハメッド・エテシャミ氏によれば、こうした1メートル仕様にとどまらず、「2メートル、あるいはそれ以上の大型部品に対応する機種も出していく」とのこと。
すでに、ボーイングの次世代小型旅客機「737MAX」に搭載されるLEAPエンジンの燃焼室向け部品の製造に導入が始まっていて、航空機以外にも自動車、電力、宇宙関連部品への展開を狙う。また、コンセプトレーザーのマシンとは異なる金属も扱えることから、アーカムの電子ビーム溶解法(EBM)を採用した大型機も品ぞろえしていく計画という。
すべての積層造形ソリューションを提供
そもそも航空機エンジンなどを作るのに、装置ユーザーの立場であるGEがなぜ自ら機械やソリューションを提供する側に回るのか。こうした疑問にエテシャミ氏は、「我々はこの分野で包括的に全てを提供できる唯一の企業だ。材料となる金属パウダーの提供から、装置システム、さらに製造物であるジェットエンジンやガスタービンまで作っている。そのため最終製品の効率向上や製造コスト削減に加え、製造装置の改善手法も理解している。この10年間で我々が学んだ多くのことを社外の顧客に提供することが、産業全体に役立つと考えている」と説明する。
そうした考えに沿ってか造形装置メーカー以外にも、シミュレーションソフトウエアを手がけるベルギーのジオニクス(GeonX)や、アーカム子会社で金属粉末を製造するカナダ・ケベック州のAP&C、アーカムおよびその顧客に対して医療用インプラントのプリンティングを行う米DTIといった、金属積層関連の企業を幅広く買収している。
ここで、GEの積層造形への取り組みを遡ってみよう。まず2010年にエアバスA320 neoに搭載するLEAPエンジンの開発が始まり、その燃料ノズルを世界最高水準の燃料消費効率で設計しようと従来手法で挑戦を試みた。だが、内部構造が複雑なため、鋳造は8回試みて8回とも失敗。それを金属積層造形に変えたところうまくいき、20あったパーツを1個に統合することに成功。耐久性も5倍に向上し、重量を25%減らせるなど大きな成果が得られたのだという。
こうしたことから、2012年に金属積層造形技術を持つ米モリステクノロジーズ(オハイオ州)を買収。現在は年間3万5000~4万個もの燃料ノズルを金属積層造形で生産している。さらにターボプロップエンジン「a-CT7」の開発でも、900個のパーツを16個に減らし、5%軽量化した。しかも設計から製造、試験まで18カ月という早さだったという。こうした知見を先進ターボプロップ(ATP)エンジンの開発にも役立て、ATPでは855個のパーツを12個に減らしながら、5%の軽量化と20%の燃焼効率向上を実現できたとしている。
競合するシーメンスとの違い
一方、カスタマー・エクスペリエンス・センターを開設したミュンヘンは、GEの競合でもある独シーメンスのおひざ元でもある。デジタルモノづくりやデジタルサービスを標榜するシーメンスもまた金属積層造形に力を入れているが、GEアディティブのエテシャミ氏は「我々は顧客に対し、造形装置からソフトウエア、サービス、材料、エンジニアリング、コンサルティングまでトータルに提供している。シーメンスはソフトウエアにより重点を置いているように思う」と両社のアプローチの違いを指摘する。
それどころかエテシャミ氏は「シーメンスも我々の顧客となる可能性があるし、GEの競合に当たるほかの企業にも我々の製品を買ってくれている」と優位性を強調。発表資料によれば、ミュンヘンのカスタマー・エクスペリエンス・センター開所式には、やはりミュンヘンを本拠地とするBMWグループ、真空機器やFAシステム・薄膜コーティングを手がけるスイスのエリコンなどの代表者が参加。BMWは05年にコンセプトレーザーのマシンを導入して以来、年間1万点以上の部品を3Dプリンターで製造しているという。
後れをとる日本
このように米国、ドイツが金属積層造形の装置開発や製品への適用を率先して行っているのに対し、日本は大幅に後れをとった格好。それについて、エテシャミ氏は「日本には工作機械やレーザー、エレクトロニクス産業が集積しているのでチャンスは大きい」としながらも、「手遅れにならないうちに積極的に行動に移す必要がある」とも話す。
おもに材料に樹脂を使った一般向けの3Dプリンターブームは沈静化したが、金属積層造形をはじめ業務用の3Dプリンターは着々と勢いを増している。「工場での製造技術は日本が優れているので大丈夫」というのは、あくまでこれまでの話。世界のトレンドに背を向け静観を決め込んでいると、デジタル技術によるモノづくり革新に足元をすくわれることにもなりかねない。
(デジタル編集部・藤元正)
(2018/1/19 18:00)