[ オピニオン ]
(2018/2/20 05:00)
大学の知的財産部門は重要と言われながら「死蔵特許を量産している」「万年赤字の金食い虫だ」と批判もされる。従来の“定説”とは異なる新たな視点や知見で、特許戦略を大胆にとらえ直すことも重要だ。
産学共同研究による特許出願は、一般に大学側が不利になりやすいとされ、優れた研究開発や技術成果は「大学単独で特許出願する」ことが奨励されている。しかし、日本医療研究開発機構は大学の創薬研究部門に対し、特許出願前に大手製薬会社と組むことを提案している。
創薬は一つの物質特許で実用化が可能となる特殊な分野だ。ただ、権利範囲やデータが不適切なまま日本だけで公開となった場合、企業は「独占化が難しい」として実用化に動かない。これでは死蔵特許が増えるばかりだ。
知財の専門家が多く在籍する旧帝大などとは異なり、専門人材に乏しい地方大や医科大などは無理に単独で動かず、特許ノウハウや資金力のある企業と早期に連携することが、実用化にとって望ましいという。同機構はこうした流れを後押しするため、大学の創薬シーズを非公開で製薬会社に仲介するシステムを4月に稼働させる計画だ。
一方、特許実施料や国からの支援金などの収入が、特許出願・維持費や人件費などの支出を上回る大学はまれだ。これに対し、山口大学知的財産センターは、研究者が外部研究資金を得た時に大学本部に入る「間接経費」に着目し、特許収支の“再設計”を提案している。
「特許出願がきっかけとなった競争的資金」と「特許が貢献した共同・受託研究」の両方の間接経費を収入項目に追加。これにより収入が支出の2・3倍と大幅黒字になったという。
「単に線引きを変えただけ」という見方もある。だが他の大学や複数の官庁などから反響もあり、大学の知的財産活動を収支面から正当に評価する手法の一つだといえよう。
大学の知財戦略に明確な“正答”はない。常識とは異なる試みに挑戦し、新たなシステムを確立してほしい。
(2018/2/20 05:00)